三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『雲走る』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

Awa Come』収録。

Awa Come

「地元・徳島」がテーマとなっているこの2ndミニアルバムは、4曲が上京前の曲、4曲が帰省して作った新曲となっているそうです。恐らく新曲は『ここだけの話』『青春の一番札所』『セカンドプレゼント』『また、近いうちに』、昔の曲が『キャラメルプリン』『雲走る』『あいかわらず』『My suger view』でしょうね。

雲走る

雲走る

最初に聞いたときの印象だと、昔の曲は『キャラメルプリン』と『My suger view』が刺さったのですが、だんだんと『雲走る』もいいなあとなってきました。

 

歌詞

歌詞は『湯気』のように強くストーリー性があって読みやすいので特に解説・考察ということは必要ないと思います。それだけ秀逸だということです。

しかしこの曲について思うのは、やはり要所々々の言葉遣いがぴったりハマっているな、ということでして。もちろん歌詞→曲の順番で作っているからメロディとの合致がいいのは当然なのですが、それ以上に、橋本絵莉子が切実なトーンで歌うものとしてぴったりだと感じます。

具体的には、「ほんの一瞬」「こんな偶然」のような尻上がりの部分は切実さを感じますし、「もうどうでもいい」「あんたのせいだよ」と強く歌うサビ前の部分にはその切実さゆえの力強さが籠もった言葉になっています。

 

シチュエーションとしては、よく晴れた暑い日に車に乗っていて赤信号で止まったとき、昔さよならした人が立っているのに気づく、ということですが、歌詞の節々から徳島の暑くて真っ白な雲がもくもくと浮かんでいるような空が想像できます。

ちょうど車に乗っていますし、『ここだけの話』のMVのイメージともリンクしてきます。これは流石に「徳島」というテーマ性を強く押し出したミニアルバムの強さでしょう。

youtu.be

3人でオープンカーに乗ってるこのシーン、大好きなんですよね……

 

Aメロのギターはなんとも言えないスカスカ感があります。ちょっとノイズも混ざってるし。でもBメロで単音弾きになってサビで盛大にストロークする、この落差こそがこの曲の良さを作っているように思います。

ベースは割りとシンプルで、ここにも初期っぽさを感じさせますが、2番サビ後は目立ってギターとリンクしたメロディを弾いています。この曲は、というかチャットモンチーの曲は割りと、全体的にギターが不規則な弾き方をするので、推進力を担っているのがベースなんですよね。ボーカル・ベース・ドラムの三点セットで曲が完成していて、ギターは装飾になるイメージ。スリーピースバンドの一つの答えだと思います。

ドラムも割りとシンプルですが、サビの音はやっぱりいいですね。くみこん最高。二番に入ってタムを使って音色を加えてくるのとか、シンプルなのに抜群の雰囲気が出せるのはやはりチャットモンチーの魔力というかなんというか。印象に残るドラムです。

ボーカルのメロディですが、「一瞬」とか「空にぽかんと」のあたりで急に高くなるので、裏声で歌わざるを得なくて、それが歌詞にも現れている「切実さ」の表現に役立っているのではないでしょうか。Aメロの動きの少ないメロディとの対比も効いています。

 

余談ですが、くみこんは『告白』~『You More』にかけて結構手の込んだドラムを叩くようになっているので、新しい曲はすぐわかります。『Awa Come』でも『セカンドプレゼント』とか、かなりややこしいリズムで叩いていますよね。『ウィークエンドのまぼろし』みたいな吹奏楽を感じるドラムも好きなのですが、こういうドラムもかなり好きです。やっぱりくみこんのドラムは独創的なところがあるので。

sheep-three.hatenablog.jp

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古い曲ばっかりレビューしてますね……『青春の一番札所』とかも独特な良さがあるので次は新しい曲もやりましょう。

 

『シャングリラ』レビュー(歌詞&MV篇)

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

3rdシングル『シャングリラ』2ndアルバム『生命力』収録。

チャットモンチーBEST~2005-2011~』『BEST MONCHY 1 ~Listening~』にも収録。

シャングリラ

(メルヘンなジャケットですね)

シャングリラ

シャングリラ

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言わずとしれたヒット曲で、チャットモンチーはこれをきっかけにMステ出演などを達成、そのままアルバムを出して(女性バンドで当時最速のデビュー2年2ヶ月時点で)武道館2days…という一連の流れの、きっかけになった曲でもあります。

チャットモンチーといえばシャングリラ、という方も多いのかもしれません。『染まるよ』や『風吹けば恋』かもしれませんが(個人的には小さい頃にCMで聞いたことがあったので、3人体制では唯一『風吹けば恋』を知っていました)。

そんな曲のレビューを今更ながら書いていこうと思うわけです。よろしくおねがいします。

歌詞

やっぱりクミコンの歌詞は良いですよね。ハマったきっかけは全てが衝撃的だった『ハナノユメ』なのですが、『シャングリラ』の「幸せだって叫んでくれよ」という部分を聞いて「やっぱりこのバンドいいな、推そう」と決意した次第です。

携帯電話を川に落としたよ 笹舟のように流れてったよ あぁあ

君を想うと今日も眠れない 僕らどこへ向かおうか あぁあ

チャットモンチーは、というよりロックバンドは、概して携帯電話が嫌いです。同じアルバムの『モバイルワールド』を聴けば一目瞭然。

2番ではこう続きます。

あぁあ 気がつけばあんなちっぽけなもので 繋がってたんだ

あぁあ 手ぶらになって歩いてみりゃ 楽かもしんないな

たしかに。という感じです。当時は2006年。ガラケーの時代で、今のようにスマホ依存などと騒がれてはいませんでした。だから無意識でいたのですが、これは今の時代も通用する話だなと思います。

そしてこの携帯電話のちっぽけさ、空虚さを示すのに「笹舟のように流れてったよ あぁあ」という表現を使うところ。これが一つ見どころではないでしょうか。笹舟。携帯電話の比喩で「笹舟」ですよ。

こう、一旦流れていくのを目にしてしまった瞬間、途端に胸が軽くなって、流れていく携帯電話をぼうっと眺めている感じでしょうか。この独特さが歌詞の魅力となっています。

シャングリラ 幸せだって叫んでくれよ

時には僕の胸で泣いてくれよ

シャングリラ 夢の中でさえ上手く笑えない君のこと

ダメな人って叱りながら 愛していたい

サビは一つ一つの言葉遣いがそれぞれ素敵ですね。きりがないので全部は書きませんが。

ストーリーとしては、2人の登場人物が見えてきます。愚直で不器用な「君」。君を愛する「僕」。

「君」はプライドが高いから、「僕」には弱いところを見せないのですが、それを少し淋しくも思っているのが「僕」の心情ではないでしょうか。

ただ、頼ってもらえなくてなよなよしている「僕」は、携帯電話を川に落としたところで吹っ切れます。「君」との繋がりを携帯電話に求めていた「僕」ですが、そんなちっぽけなものではなく、もっとしっかり繋がりたい、と思ったのでしょうか。自分への言葉か相手への言葉か、こんなフレーズが続きます。

胸を張って歩けよ 前を見て歩けよ

希望の光なんてなくったって いいじゃないか

最初は「僕らどこへ向かおうか」と言っていたのが、大変化です。とりあえず前に進まなければ、と。強い。チャットモンチーの強さ、しなやかさってこういうところですよね。

で、最後の部分。これまた好きな部分なんですが、

シャングリラ 君を想うと今日も眠れない僕のこと

ダメな人って叱りながら 愛してくれ

結局、素直になることにしたというべきでしょうか。「僕のことダメな人って叱りながら愛してくれ」って、あまりにまっすぐな言葉なので刺さります。

 

いかがだったでしょうか。タイトルの「シャングリラ」は、呼びかけているから人名だ、という解釈もあるようですが、本来の意味の理想郷、桃源郷としての意味も少なからず含まれているでしょう。難しいところではありますが……。

 

MV


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MVを手掛けたのは福井英晃さんで、『ハナノユメ』から『きみがその気なら』や『Magical Fiction』まで手掛けている方です。ポップなイメージのMVも多くて、初めてみた人でも受け入れやすい仕上がりだと思います。

最初に見たときは、寝ていると思っていたえっちゃんが実は壁にくっついて立っていただけだったというシーンでまんまと驚かされた印象があります(笑)

全体としてカラフルなリングがテーマに仕上がっていますが、この4つ打ちのバスドラムとぴったり合っていると思います。やっぱりMVって何より音楽とイメージ・リズムが合っているのが大事ですよね。

YouTubeのコメントを見ていたら「どこか気の抜けたような感じ」という言葉があってピンときました。このMV、謎のダンサーといい、ハリボテのアンプといい、結構気が抜けているんですよね。なるほどチャットモンチーというバンドの魅力の一側面をうまく引き出せているMVなのかな、とも思いました。

 

『涙の行方』レビュー

作詞・作曲:橋本絵莉子

『YOU MORE』収録。

YOU MORE

涙の行方

涙の行方

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歌詞

私の涙は

湯船のお湯に溶けて

排水溝へ流されて

しょっぱい海になる

 

作りすぎたって

あるだけティッシュに吸われて

乾いて空気になって

小さい雨になる

この歌詞を書けるのがさすがえっちゃんだなあという感じです。グロい、と言ったら少し違うんですが、自分の涙をこういうふうに書くことの"ヤバさ"が伝わりますでしょうか。

命震えて

信号送って

絶妙の塩加減

ヤバい。ヤバいと思います。これ、自分が涙を流している状況で歌っている歌のはずです。だけど「作りすぎたって あるだけティッシュに吸われて」とか言っちゃうわけです。「絶妙の塩加減」とか言っちゃうわけです。

えっちゃんすごいなあ。うん。この歌詞をちょっと子供っぽくあっけらかんと歌うんですが、一言一言が的確というか、驚かせるような言葉遣いをしてきます。

そもそも、「涙」そのものを一曲にしちゃうというところから意外性があります

「涙の……」という曲はたぶん相当数存在すると思うのですが、ふつうはシチュエーションとか感情が具体的に記されています。一方で涙そのものに焦点を絞ることで、ある種の普遍性を帯びた歌詞になっているのがこの曲なのです。それが吉と出るか凶と出るかは関係なく、この新しさを純粋に受け止めたいです。

忘れないで 見て

涙の行方を

しょっぱいから海なんだ

忘れられないよ

涙の理由を

小さいけど私なんだ

「しょっぱいから海なんだ」「小さいけど私なんだ」というワードセンスもすごい。これを実際には"ちっさいけど"と歌うのも好きです。

こうして聴いてみると、やっぱり『YOU MORE』と『変身』って音楽的にかなり連続性があるんですよね。3人から2人へと体制が激変しているので全く別のものとして捉えてしまいますが。

ギターは太めで歪んだ音で、シンプルなカッティングやストロークがメイン。ドラムについても、『バースデーケーキの上を歩いて帰った』あたりは複雑ですが*1、特にこの曲についてはかなりシンプルで、『告白』のドラムからすると激変に近いです。

ベースがかなり複雑な演奏をしているのが『変身』とは違うポイントでしょうか。そもそもあのアルバムだとベースが出てこないので……。

この曲について言えば、Bメロで「命震えて……」のジャジャジャン・ジャカジャカジャカというリズムが、次の「腫れたまぶたと……」のジャジャッジャジャッジャジャッジャジャーンになるところが好きです。これ、歌詞のリズムとリンクしているのが素敵です。さすが詞先なだけあります。

このアルバムのサウンドは全体的にかなり好きなので、ちょっとロック度が高すぎるかもしれませんが、尖ってていいなあと思います。その中で独特なリズムを刻んでいるのが、アルバムの折り返し点としても最適な立ち位置ではないでしょうか。

 

『YOU MORE』の曲ってツアーやった後はほんっっとに演奏されてないんですよね。理由は色々あるとは思うんですが、結構いい曲あると思うんですけどね……。

機械仕掛けの秘密基地ツアーでアルバムの頭2曲を演奏していたらしいんですが、DVDには収録されず……というかほんとに機械仕掛けツアーのDVDお願いしますほんとに。

まあそういうことを言うとツアーすらやっていない『Awa Come』はどうなるんだっていう話も……。

 

 

*1:これを書きながら『YOU MORE』を聴いてみたら、くみこん作詞の曲は明るくドラムが複雑、他の曲は基本的に影を帯びていてドラムはシンプル、みたいな傾向がわかってびっくりしました。実はこのアルバムの時点で2人は『変身』体制みたいなモードで、一方くみこんの曲はそれまでのチャットモンチーと連続性がある感じになっていたとは。無意識だとは思いますが、曲調からははっきり見て取れます。あ、『レディナビゲーション』はちゃんと明るい曲ですが。でもシングルっぽいのでこれはちょっと例外的かなとも。

『ときめき』レビューⅡ~『染まるよ』と『ときめき』~

作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子

『ときめき/隣の女』『共鳴』収録。

ときめき / 隣の女(初回生産限定盤)(DVD付)

ときめき

ときめき

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一昨年の記事(↓)で書ききったつもりだったのですが、決定的な一言を書き漏らしていたので、補足版です。

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前の記事ではこう書きました。「『ときめき』は恋するような年齢から脱したあとの女性の独白、といった具合です」と。

さらに、

『耳鳴り』にはラブソングもたくさんありますが、その"若い"恋愛からだんだんと変化していくのが、『Last Love Letter』『あいまいな感情』『ここだけの話』『謹賀新年』『ふたり、人生、自由が丘』『ときめき』『I laugh you』『たったさっきから3000年までの話』という感じです。”大人”になり、”夫婦”になり、そして”親”になっていくチャットモンチーの過程がわかります。

この曲については、"夫婦"になり、あるいは子供もいるような状態で、かつて恋人だった「あなた」について歌っています。

まさにそうなのですが、ここで引っかかりませんでしたか。なぜ『染まるよ』に言及しなかったのか。

いや。これは考えが浅かったなというか何というか。

そもそも、『染まるよ』はチャットモンチーで一番ヒットしたバラード曲なわけです。ひょっとするとチャットモンチーといえば『シャングリラ』よりも『染まるよ』を思い浮かべる人もいるかもしれないぐらいです。僕は昔も今もハナノユメですが……

ってなわけで、めちゃくちゃ重要な『染まるよ』なのですが、これも福岡晃子の筆です。福岡晃子が『染まるよ』を書いたのちに5,6年経ってから書いたのが『ときめき』なわけです。

で、ここでサビを思い出してください。どちらも「いつだって…」なのに気づきましたか。『ときめき』が、

いつだって恋がしたいよ あなた以外と

いつだって恋がしたい あなた以外に

思うばかり 抜け出せないのに

一方、『染まるよ』が、

いつだってそばにいたかった

 分かりたかった 満たしたかった

プカ プカ プカ プカ

煙が目に染みるよ 苦くて黒く染まるよ

意図してかせずかはわかりませんが、『染まるよ』と『ときめき』はある種、対になるような構造があります。アンサーソングと言ってもいいかもしれません。『共鳴』のメインコンセプト(?)である大人になったチャットモンチーというのは、ここから滲み出ています。

『染まるよ』は既に失恋の歌でした。だから、「~したかった」が連発されます。一方、『ときめき』は夫婦の歌になっているので、「~したいよ」になっているんですね。この言葉のちょっとした違いが深みを出しています。

そして、『ときめき』の2番ではこう歌われます。

いつだってときめきたいよ あなたとだって

いつだってときめきが 私にだって

胸の奥の声が聞きたい

関係が終わってしまって、取り戻しがつかなくなりすべて過去形で歌われる『染まるよ』と違って、『ときめき』の夫婦はこの先をずっと見据えています。

深い愛で包まれている夫婦の生活ですが、もう恋のような感情はすっかりなくなってしまっていて、作者はそれに一抹の寂しさを覚えているわけです。一番では「あなた以外に/恋がしたいよ」と歌っていましたが、それでも「思うばかり 抜け出せないのに」というのです。

結局、不安も、不満も、好きも嫌いも、狂気も未熟さもすべて抱えて夫婦で生きていかなければならないのでしょう。そう悟った上で、半分諦めの、半分は深い愛のつまった本心が、「胸の奥の声が聞きたい」と2番で素直に歌われているのではないでしょうか。

 

『染まるよ』で「いつだってそばにいたかった 分かりたかった 満たしたかった」と後悔したところで、この頃の恋愛では失敗したらもうそれっきり、会えもしないかもしれません。そういう儚さがぎゅっと詰まったこの曲は言うまでもなく素晴らしいです。

『ときめき』は『染まるよ』と聴き比べると面白いな、というのが今回の気づきでした。

 

前回書き漏らしていたことをもう一つ。

嵐がすぎさって

私はいちごの種みたいに 狂気を胸にしのばせ眠る

ここのフレーズって大発明じゃないですか? この曲の狂気じみた、でも素直で純粋な雰囲気をぴったり表していると思います。しかも「いちごの種」。いちごの種が狂気を忍ばせているなんて考えたこともなかったです。いやー、さらっと歌われますがすごいパートだと思いますねここ。

改めて読んでみて思ったのですが、この「嵐」って夫婦喧嘩とか、夫婦仲の冷え込む何かの出来事を暗喩しているのかもしれませんね。歌詞としては簡潔なのに、深く読み下げることができて実に素敵な詩だと思います。

 

『ドライブ』レビュー

作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子

『共鳴』収録。

ドライブ

ドライブ

ドライブ

実は『変身』体制のときに作られ、すでにライブでも新曲として披露されていた曲です。男陣・乙女団を軸に作られたこのアルバムにおいても、二人だけで演奏しています。

歌詞

なんとなく「チャットモンチーの過去と、これからの決意を歌った曲だな」と感じてはいたのですが、改めて読んで見ると感慨深いものがあります。

星のない街に降りて 7年が経ちます

「相変わらず」の駅はない ここはどこだか誰も知らん

7年。このアルバムが売り出されたのは2015年ですが、作られたのは2012-13年頃だと考えると、ちょうどデビューしたときか、または上京したタイミングから7年経ったころでしょう。「星のない街」とは、東京のことだったのですね。『いたちごっこ』との関係性も想像できます。

「相変わらず」という言葉のチョイスも、『Awa Come』収録曲を思わせて、徳島と東京の対比を際立たせます。

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続くBメロ、2番ではこう歌われます。

苛立ったり うなだれたり 生きているよ

諦めたら きりがないよ

「それでも、生きているんだ」という強さ。アルバム一曲目の『きみがその気なら』にも通ずるスピリッツを感じます。実は『共鳴』の裏テーマって"毒"のほかには"生命力"じゃないのかなと思うぐらいです。

ぼくらは車を買って作戦を立てた

「まっすぐに突き抜けよう」

その先に何があっても目を閉じないでいよう

約束をのせて ドライブ

ここにチャットモンチーの決意があらわれていると思います。これが「何もなくても手を繋いでいよう」となり、「この先が果てしなくても目を閉じないでいよう」となるわけです。二人になって何もかも手探りのまま、それでも進んでいくという決意表明です。

『共鳴』の最後にこの曲が配されているのは、ある意味ではその後もう一度二人体制になることの予告でもあったのかな。そこまでは考えていなかったのかな。とにかく、後期のチャットモンチーに通底するものが垣間見える一曲だと思います。

曲とサウンド

サウンドは完全に『変身』のそれです。あっこびんのスキルが上がっているのでドラムが上手いです(上から目線)

やっぱりチャットモンチーって『橙』とか『恋愛スピリッツ』の頃からそうですがバラードがとても上手いんですよね。それは根本的に「音の引き算」をする作り方だったからかもしれません。

Aメロで音を絞るところもサビではじけるところも、二人だけで十分すぎるほどの音が響いていて、流石としか言いようがありません。これはもちろんベースの不在を、音の厚いギターでカバーしているからで、意外とこのギター(黒いシンライン)の音が癖になるので、個人的にはかなり好きです。

(えっちゃんのギターは黄色いレスポールの音も好き)

 

やっぱり『共鳴』がぼくはかなり好きです。それは「夜」のイメージがあるからで、ジャケットの色もそうですし、どこか毒味を持ち影を帯びた曲群もそうですが、『例えば、』やこの『ドライブ』の印象も強いのだと思います。この曲は演奏と歌詞とが相まって、『コスモタウン』のように夜空が開けていく感じ——しかし"星のない空"ではあるのですが——がして、アルバムを締めくくるのに相応しい一曲ですね。

youtu.be

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久々のブログ更新で、特にチャットモンチーの曲はすごい久しぶりですね……どうもどうも。

 

『日記を燃やして』カセットテープについて

グッズ扱いで販売されていた、『日記を燃やして』のカセットテープを買ってしまいました……! 以下、僅かにネタバレありです。

日記を燃やして

〈DJ橋本のおしゃべりつき〉とありまして、順番はアルバムと異なります。

いちおう、こんな順番です

A面

  1. ワンオブゼム
  2. かえれない
  3. あ、そ、か
  4. 今日がインフィニティ
  5. ロゼメタリック時代

B面

  1. 脱走
  2. 特別な関係
  3. fall of the leaf
  4. 前日
  5. タンデム

「DJ橋本」とあるところからだいたい察しがつくと思うのですが、えっちゃんがラジオ番組「らじおじらじお」のDJを務めていて、リスナーからのどうでもいいお悩みに答えるというていです。

お便りを送ってくるリスナーの中には、年齢などをよく聞くとえっちゃんの身内っぽい人もいて、芸が細かいです。

お悩み自体は本当にどうでもいいというか、どうでもいいを通り越してしょうもないという感じなんですが、それに対するえっちゃんの答えも、独特な間と不思議な雰囲気で、とにかく橋本ワールド全開です。えっちゃんのMCが好きな方はぜひ買って聴いてみてほしいです!

カセットテープというのもいいですね。アナログ独特の音域や音質も味がありますし、この『日記を燃やして』のカセットは透き通った青緑色で綺麗です。

ちょっとした部分なのですが、えっちゃんがA面終わりのおしゃべりコーナーで「また、B面でお会いしましょう」というのがすごく好きで、何回も表裏ひっくり返して聴いてしまいました。

曲順も意外としっくり来る感じで、新しい聴こえ方がします。『脱走』や『特別な関係』の位置が結構斬新です。最後が『タンデム』というのも好いですね。

橋本絵莉子『日記を燃やして』発売!

2021/12/8、今日! 待ちに待った橋本絵莉子の1stアルバム『日記を燃やして』が発売されました!!!

嬉しい、嬉しいです……今年の早春にアルバム出すよって匂わされてから1年弱、いや、もっと言えば『かえれない(Demo)』が出てから3年弱待ってきたとも言えるかもしれません。

とりあえず一回聴いた印象を軽くメモっていきたいと思います。

結論から言うと、予想を遥かに上回って、素晴らしい曲揃いのアルバムでした。これはちょっと微妙だな……って曲が無い、そんな感想でした。

【Amazon.co.jp限定】日記を燃やして (メガジャケ付)

  1. ワンオブゼム
  2. かえれない
  3. ロゼメタリック時代
  4. タンデム
  5. あ、そ、か
  6. fall of the leaf
  7. 脱走
  8. 前日
  9. 今日がインフィニティ
  10. 特別な関係
ワンオブゼム

冒頭からギターのリフが印象的。えっちゃんは微妙に弾かなそうなリフなので早速新鮮です。メロディラインが今までのえっちゃんと全然違っていて、なんだろう、スピッツみたいな感じで、「王道のメロディを抑えつつ、オリジナリティもしっかりあって、かつロックな曲」って印象です。伝わらないかも。あと歌詞良いです。「たかがワンオブゼム」みたいな言い回しも。

目から水がこぼれたのは あなたのことを思い出したから

乾いた雑巾をしぼる指先からまだ流れる驚き

かえれない

Demoシリーズから唯一の収録。DemoのDIYな感じも、『変身』時代を思わせる感じで好きだったのですが、バンドメンバーを集めて、おしゃれな感じになっていました。コードに一音たされているからですかね(?) ギターのカッティングがおしゃれ。ボーカルは少し抑えめですね。ソロになったのにバンドっぽさが増してるという不思議。*1

それから、つねさんのドラムが最高に活きてます。ベースも軽々と音を切りながら動くのが良いなあとこの曲で気づきました。後半はベースの独擅場かも。

ロゼメタリック時代

良すぎます、これ。まずイントロ、ギター二人でハモってますよね多分。良い……。

歌詞は『引っ越し』みたいな感じで、モノの羅列です。えっちゃんのコメントにありましたが、まさに日常を燃料にしているのが伝わってきます。

アルバムができました。
嬉しいです。
『日記を燃やして』というタイトルには、「身の回りにあるものを燃料にして」という意味があります。日常を燃料にして、作りました。
私ひとりの名前のアルバムですが、せーので演奏する喜びや、ひとりでは気づけない発見、作品として仕上げていく過程の楽しさ、やっぱりバンドは、音楽は、いいなと思いました。
楽しんで聴いてもらえたら、本望です。
橋本絵莉子

全体的に、バラードっぽい曲調でありながら、ロックのサウンドに乗せてしまったという具合で、私のかなり好きなタイプです。*2後半のギターソロは震えますね。他にも色々言いたいことはあるんですが、適当な言葉でなくちゃんと書きたいので、改めて。

タンデム

本当に好きな曲って開始2秒くらいでわかると思うんですが、これは開始2秒が抜群に良いです。ボーカルから始まるのも含めて最高です。最近はサブスク時代だからボーカル始まりで、スキップされないようにすぐ掴むのがトレンドらしいですが、これもそういう意図があるのでしょうか。いや、無いと思いますけど(シングルじゃないし)、でも2021年っぽい感じで素敵です。『deliver(demo)』のときも思ったんですが、こういうマイナーコードを活かした感じの、暗くて明るいような曲をえっちゃんが書いてるのが意外で、そしてかなりハマっていると思います。

あ、そ、か

ある意味で一番えっちゃんっぽい曲で、ちょっと安心したというか、故郷に帰った気分になります。歌詞の詰め込んだ感じとか、「あれやれこれやれ風呂入れ」のリズムの良さとか、新鮮さもすごいあります。

なんと言っても、「あ、そ、か」の入れ方が上手くて、琴線に触れるポイントです。

fall of the leaf

静かな曲。「青色というか青空色の空」とか、「なんて愛おしい私の生まれた季節 fall of the leaf」とか、歌詞が特に良いですね。"サビだと思っていたところが実はBメロで、さらに本当のサビがある"という、『プラズマ』的な構造を、いとも自然に成し遂げていますね。あと、もう言い尽くして来たんですが、メロディラインが新鮮で、それから、えっちゃんの歌声は優しくなったんだな、と気づきました。地味にいい曲かも。

脱走

衝撃の一曲。アコースティックならともかく、他の楽器が合いの手のように色々入っているあたりが、1970年代のような雰囲気です。で、この曲に『脱走』っていうタイトルをつけてしまうセンスの良さには毎度びっくりします。ギターだかウクレレだかマンドリンだか知りませんが、裏でずっと小さい音でメロディが流れているのが好きです。

前日

これもかなり好きな曲です。方言で書いた、等身大そのままの歌詞が微笑ましすぎるし、共感できる部分が大きくて。「ああ今日めっちゃ楽しかった」とか。「とりあえずたぬきち撫でよう」とか。優しいメロディラインも含めて、シンプルに素敵な曲です。

今日がインフィニティ

前の記事で書いた気がするので省略します。アルバムに入れて聴くとオルタナ感が目立ちますね。


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特別な関係

映画のエンドロールみたいな印象で、アルバムの最後にはぴったりの曲だと思いました。

平成三十三年目の答え合わせをしよう

この部分が、フレーズも歌もメロディも良くて、最初に聴いたときなんか泣きそうになりました。歌詞をじっくり眺めてゆっくりレビューを書きたいですね。

新しい橋本絵莉子をフルに感じられたアルバムで、何に似てるとかそういう印象は湧いてきませんでした。今のえっちゃんにしか書けない音楽が10曲詰まったアルバムだったと思います。

冬のライブは行けなそうなのですが、もう何回かライブやってほしいなーーー。ぜひこれらの曲を生で聴きに行きたいです。

*1:チャットモンチーはボーカルを全面に出したバンドで、楽器隊はドラムとベースが活躍する一方でギターが控えめ、という珍しい感じでした。このアルバムではギターがボーカルと並んで前に出ていて、ベースとドラムは控えめという、チャットモンチーとは真逆な印象を持ちました。えっちゃんの声は相変わらず聴きやすいので、聴こえづらいという心配もなく、好意的に受け取れます

*2:マイナーだけどチャットモンチーの『リアル』とか。