『共鳴』収録。
作詞は作家の西加奈子さん。そういえばチャットモンチーって歌詞の提供は受けても曲はえっちゃん(またはあっこびん)が作っていますよね。*1そこがチャットとそれ以外の境界線なのでしょうか。*2
『共鳴』は、2人+男陣・2人+乙女団・2人+恒岡章・2人の4パターンがありますが、この曲は2人だけで録音した曲です。
歌詞
この曲のテーマと言っても良いのが、次のフレーズです。
僕らにまつわる全てのものは
ひとつも欠けてはいけなかった
絶対にひとつも
このフレーズがとても素敵だなと思って。3人、2人、6人と歩んできたチャットモンチーの、傍から見れば紆余曲折ともとれるような歴史ですが、それがあってこそのチャットモンチーだ、とでもいうふうに強く過去を肯定する姿勢も感じさせるような歌詞になっています。
もちろん、チャットモンチーだけではなくて、もっと普遍的な関係のことをも歌っています。
Aメロの歌詞は、「だから息を飲むの」とか「『あなたは悪くない』と君が初めて言ってくれた」など、全部ハッとさせられるような言霊がこもっているのですが、特に
ぶざまな手を褒めてくれたのは
君だけだった
あの日から今日まで
誰に笑われたって平気になったよ
というところが個人的に好きです。オンリーワンの存在である「君」の大切さがしみじみ伝わってきたところで、歌詞の人称は続いて「君」と自分を合わせて「僕ら」というひと括りに変わっていくんですね。さらっと聴いてしまいがちなところですが、隠れた魅力です。
そして、曲の大部分を占めるのが、今まで「欠かせなかった」ものを「例えば、」と列挙するところ。
例えば、深夜の住宅街
例えば、見飽きた缶コーヒー
本当に些細で、だけど心がちょっと休まるような、そんな日常のあらゆる景色や経験が積み重なって今があるのだという、この強い肯定の姿勢がまことにチャットモンチーらしいと思います。
これは西加奈子さんが加えたスパイスなのかどうかはわかりませんが、節々にチャットの過去曲を思わせるフレーズがあるのですよね。
「ヘンテコなオブジェ」は確実にそうですが、「拾った携帯電話」や「癖のある長い髪」なんかは、3人時代の曲をちらちら思わせる感じが……しませんか?
曲
コードとかって科学的にどうのこうのと言えますが、メロディってある程度天賦の才みたいなところがあるのでほぼ言及してこなかったのですが、これだけは言わせてください。「♪たと~⤴えば~⤴しん~⤴やの~⤴」と、伸ばしながら音階が少しずつ上がっていくこのメロディ。この列挙するタイプの歌詞を最大限に活かしているメロディだと思います。ほんと最高レベルじゃないでしょうか。
一般とは逆でチャットモンチーは詞先なので詞を見ながら曲を作るわけですが、その良さがはっきりと出ている曲ではないでしょうか。*3
演奏
録音は、ギター弾き語りを録音してから、それに合わせる形でドラムはじめその他の楽器を録音したそうです。だからちょっとだけドラムのテンポがずれているんですが、チャットモンチーらしいと言えば良いですかね。
全体の音色は『共鳴』の中でも一番好きでして、段々と音数が増えて大合奏になっていく構成と、優しく包み込んでくれるような演奏と歌が素敵です。アルバムで2つ後の曲は(こちらもめちゃくちゃ素敵な)『ときめき』なのですが、歪んだエレキが中心の『ときめき』と、バラード系の連続ながら路線がはっきり分かれています。
グロッケンが良い雰囲気出していますよね。管楽器は入れる割にサビの本当に最低限の部分しか入れないのが好感持てます。音の差し引きは(無意識だとしても)計算されていますね。
ドラムは、マーチング風のアレンジはこの曲にはぴったりだと思いますが、このスネアドラムに限らず、バスドラム(大太鼓?)の踏み込みの強さなど、パーカッション系は節々にやはりくみこんの影響を感じてしまいます。*4
いかにチャットモンチーにとって高橋久美子が重要だったのか、というのが演奏のほうから伝わってきてしまい、歌詞と合わせてかなりうるうるしてしまう曲です。
感想
今更ですが『共鳴』、めちゃくちゃ良いですね……。夜中に布団の中で聴くと沁みます。
全体として、尖っていなくて優しく包容してくれる感じがあるのですが、内なる毒のようなものを認めてくれるし、また優しいままに前を向かせてくれるところがあると思います。この一枚にはかなり救われましたね。