三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『涙の行方』レビュー

作詞・作曲:橋本絵莉子

『YOU MORE』収録。

YOU MORE

涙の行方

涙の行方

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歌詞

私の涙は

湯船のお湯に溶けて

排水溝へ流されて

しょっぱい海になる

 

作りすぎたって

あるだけティッシュに吸われて

乾いて空気になって

小さい雨になる

この歌詞を書けるのがさすがえっちゃんだなあという感じです。グロい、と言ったら少し違うんですが、自分の涙をこういうふうに書くことの"ヤバさ"が伝わりますでしょうか。

命震えて

信号送って

絶妙の塩加減

ヤバい。ヤバいと思います。これ、自分が涙を流している状況で歌っている歌のはずです。だけど「作りすぎたって あるだけティッシュに吸われて」とか言っちゃうわけです。「絶妙の塩加減」とか言っちゃうわけです。

えっちゃんすごいなあ。うん。この歌詞をちょっと子供っぽくあっけらかんと歌うんですが、一言一言が的確というか、驚かせるような言葉遣いをしてきます。

そもそも、「涙」そのものを一曲にしちゃうというところから意外性があります

「涙の……」という曲はたぶん相当数存在すると思うのですが、ふつうはシチュエーションとか感情が具体的に記されています。一方で涙そのものに焦点を絞ることで、ある種の普遍性を帯びた歌詞になっているのがこの曲なのです。それが吉と出るか凶と出るかは関係なく、この新しさを純粋に受け止めたいです。

忘れないで 見て

涙の行方を

しょっぱいから海なんだ

忘れられないよ

涙の理由を

小さいけど私なんだ

「しょっぱいから海なんだ」「小さいけど私なんだ」というワードセンスもすごい。これを実際には"ちっさいけど"と歌うのも好きです。

こうして聴いてみると、やっぱり『YOU MORE』と『変身』って音楽的にかなり連続性があるんですよね。3人から2人へと体制が激変しているので全く別のものとして捉えてしまいますが。

ギターは太めで歪んだ音で、シンプルなカッティングやストロークがメイン。ドラムについても、『バースデーケーキの上を歩いて帰った』あたりは複雑ですが*1、特にこの曲についてはかなりシンプルで、『告白』のドラムからすると激変に近いです。

ベースがかなり複雑な演奏をしているのが『変身』とは違うポイントでしょうか。そもそもあのアルバムだとベースが出てこないので……。

この曲について言えば、Bメロで「命震えて……」のジャジャジャン・ジャカジャカジャカというリズムが、次の「腫れたまぶたと……」のジャジャッジャジャッジャジャッジャジャーンになるところが好きです。これ、歌詞のリズムとリンクしているのが素敵です。さすが詞先なだけあります。

このアルバムのサウンドは全体的にかなり好きなので、ちょっとロック度が高すぎるかもしれませんが、尖ってていいなあと思います。その中で独特なリズムを刻んでいるのが、アルバムの折り返し点としても最適な立ち位置ではないでしょうか。

 

『YOU MORE』の曲ってツアーやった後はほんっっとに演奏されてないんですよね。理由は色々あるとは思うんですが、結構いい曲あると思うんですけどね……。

機械仕掛けの秘密基地ツアーでアルバムの頭2曲を演奏していたらしいんですが、DVDには収録されず……というかほんとに機械仕掛けツアーのDVDお願いしますほんとに。

まあそういうことを言うとツアーすらやっていない『Awa Come』はどうなるんだっていう話も……。

 

 

*1:これを書きながら『YOU MORE』を聴いてみたら、くみこん作詞の曲は明るくドラムが複雑、他の曲は基本的に影を帯びていてドラムはシンプル、みたいな傾向がわかってびっくりしました。実はこのアルバムの時点で2人は『変身』体制みたいなモードで、一方くみこんの曲はそれまでのチャットモンチーと連続性がある感じになっていたとは。無意識だとは思いますが、曲調からははっきり見て取れます。あ、『レディナビゲーション』はちゃんと明るい曲ですが。でもシングルっぽいのでこれはちょっと例外的かなとも。