三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『変身』アルバムレビュー

変身

くみこん脱退後初のオリジナルアルバム。
『Last Love Letter』を最後にシングルを出していなかったチャットモンチーですが、2人体制への【変身】以降、シングルをすごい勢いで出します。アルバムまでに出した枚数は5枚で、チャットモンチー史上最多となっています。(曲数だと両A面が1枚、B面が1曲入った『生命力』が6曲で最多です。『変身』は両A面の『夢みたいだ』が未収録のため5曲です)

オリジナル曲は7曲。『耳鳴り』が10曲、『YOU MORE』が11曲、『誕生』が6曲ですが、他は7曲か8曲ですのでバランスは良いと言えるでしょうか。

曲順

1.変身
2.ハテナ
3.テルマエ・ロマン
4.少女E
5.コンビニエンスハネムーン
6.Yes or No or Love
7.初日の出
8.歩くオブジェ
9.きらきらひかれ
10.ふたり、人生、自由ヶ丘
11.ウタタネ
12.満月に吠えろ

曲の並び順はこうなっています。概ね、「序盤で盛り上げて始まり、静かな曲とアップテンポな曲を挟む」構成でしょうか。
面白いのは、11『ウタタネ』の後で最後に『満月に吠えろ』を入れてきたところです。
sheep-three.hatenablog.jp
『サラバ青春』、『ミカヅキ』、『余韻』などからなんとなくチャットモンチーはアルバムの最後をしっとり終えがちなものだと思っていました。だから『ウタタネ』を聞いて「もうアルバムも終わりか…」みたいな気分のところに、あのイントロが入ってきて、知っている曲ながら衝撃を受けます。

満月に吠えろ

満月に吠えろ

『満月に吠えろ』は最初に出した実験的な意味合いも大きいシングルで、純粋にギターとドラムだけ(と言ってもギターのコードだけループマシンで重ねているようにも聞こえますが)という、音の少ない構成になっています。『テルマエ・ロマン』『ハテナ』と音が増えていった中で、アルバムの真ん中に溶け込ませるのが難しかったようにも思います。
しかし、この曲が最後にあることで、アルバムを出したあとまたお休みに入るチャットモンチーが、「絶対に必ず戻ってきて、また新しいことをしてくれるだろう」と信用させてくれたと思うんですよね。一種記念碑的な曲として、またこのアルバムに欠かせなかったと思います。

このアルバムは全体を通して、ほとんど2人だけで仕上げていますが、あまり音の少なさを感じません。バンドは3人以上という固定観念をぶち壊して、2人でこれだけロックで攻撃的で力強く、それでいて質の高くバラエティー豊かなアルバムを作ったのは、きっと後続のアーティストを勇気づける存在として語り継がれるでしょう。

パート分担

最後に、備忘録として『変身』のパート分担をメモしておきます。冒頭は作詞です。えっちゃんの作詞が非常に多いですね。えっちゃんが多いの、『誕生』とこれくらいじゃないですか? 全作曲は橋本絵莉子。ボーカルとコーラスは言わずもがななので省略します。
CDなどを聴いて分かる範囲で書いているので、間違いが多いと思います。見つけたらコメント等でご指摘お願いします。

(橋本)変身(Gt.*Dr.橋本 Ba.福岡)
(橋本)ハテナ(Gt.ハモニカ:橋本 Dr.福岡)
(橋本)テルマエ・ロマン(Gt.Gt.*橋本 Dr.福岡)
(橋本)少女E(Gt.Gt.*橋本 Dr.福岡)
(橋本)コンビニエンスハネムーン(Gt.Gt.*タンバリン:橋本 Dr.タンバリン:福岡)
(福岡)Yes or No or Love(Ba.橋本 Dr.福岡 Co.後藤**)
(橋本)初日の出(Ba.福岡 Dr.橋本)
(橋本)歩くオブジェ(Gt.橋本 Dr.福岡 +ストリングスなど)
(福岡)きらきらひかれ(Gt.Gt.*橋本 Dr.福岡)
(橋本)ふたり、人生、自由ヶ丘(Gt.Gt.*笛:橋本 Dr.笛:福岡)
(福岡)ウタタネ***(Key.橋本 Dr.福岡)
(福岡)満月に吠えろ(Gt.Gt.*橋本 Dr.福岡)

(注)*ループマシンでの演奏
(注2)**ASIAN KUNG-FU GENERATION
(注3)*** これが一番怪しいです。最初はGt./Dr.かと思いましたが、Key.のようです。楽譜的にはどちらがどちらを担当していても良さそうですが、ドラムの音色的にCDではえっちゃんがキーボードという推論に落ち着きました。ライブではドラム交代(!?)もあったらしいですね。

ウタタネ

ウタタネ

sheep-three.hatenablog.jp
sheep-three.hatenablog.jp

『8cmのピンヒール』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

『告白』収録のリード曲。

8cmのピンヒール

8cmのピンヒール

  • provided courtesy of iTunes

8cmのピンヒールなんて自分は男なので履いたことないですし、なかなか心情も摑みづらい曲ではありますが、最高ですよ。

『告白』を出したのが2009年で、メンバーも20代後半、30歳が見えてきたころの曲で、「大人」を感じます。

 

8cmのピンヒールで駆ける恋

「8cmのピンヒールで駆ける恋」がキーフレーズになっています。詞先のチャットならではですが、この一節、一文だけが目立つような曲構成になっていて面白いですね。普通に曲から作っていたようではこの構成にならないはず。

8cmのピンヒールって、履いたことないですが相当高いんじゃありませんか。それで駆けているんですから、相当無茶で全力な恋だったのでしょう。そういう少し前の自分の「若さ」を見つめて振り返りながら歌っている曲で、これこそまさに「大人になったチャットモンチー」なのだと思います(本人たちもインタビューで似たようなことを言っていました)。

 

似たような趣旨の曲に、『ツマサキ』があります。『ツマサキ』は現在進行系で、「それでも私背伸びしているよ」に代表されるように、今頑張っている自分を応援しながら愛を伝えているのですが、それから4,5年経って自省的な『8cmのピンヒール』に繋がっているわけです。ぜひ聴き比べてみてください。

個人的には『ツマサキ』も好きなのですが、『8cmのピンヒール』が名曲すぎてもう、、、という感じです。

 

やっぱりくみこんの歌詞

いいですよね、歌詞。くみこんの歌詞はストーリー仕立てなのがいいですし、それに合わせてえっちゃんが最後にクライマックスを作るような曲の構成で仕上げるのも(『湯気』とか)最高です。

色々言いたいところはあるのですが、やっぱりなんと言っても偉業なのが、サビです。

月を見て綺麗だねと言ったけど あなたしか見えてなかった

あの光はね 私たちの闇を照らすため 真っ黒の画用紙に開けた穴

 月を「真っ黒の画用紙に開けた穴」って喩えたんですよ。凄いですよね。月の光よりも「あなた」が美しかった。そんな気持ちを言うのを堪えて、比喩を通して心情描写をしています。これがくみこんの「文学的」と言われる所以です。

……とか言っていたら本業が文学になっていましたね。寂しいですが、チャットのドラムも天才的ながら今の作詞家・作家のほうが天職なようにも見えますね。

そのうちくみこんのドラムについては別記事で書きます。

 

音の絞り方

この曲のもう一つ凄いのは、音を極限まで絞っているところです。たとえば1番のAメロですが、なんとバスドラムの4つ打ちとベースしかありません。そこからだんだん音が増えていき(派手なドラムのくみこんもここでは静かに8ビートです! 珍しい!)、サビ前の「8cmのピンヒールで駆ける恋」のところで止まったあとに音を大放出、サビへ突入していく構成になっています。

2番もAメロでは再び静かになりますが、特に

歩幅を合わせて歩いた 転ぶとわかっていたけど

痛みも忘れてしまうの あなたは優しいから

 のところは転びそうなリズムで、変なところでつっかかりながら進むようになります。

まさに歌詞に合わせた曲の仕上がりという感じで、チャットモンチーの名曲リストに入れるべき一曲だと個人的には思いますね。

 

曲構成でいうと、2番の「8cmのピンヒールで駆ける恋」のあと、メジャーコードで明るく続く1番と違って(たぶん)maj9というコードで変化球が入っていて、壊れやすいような響きになるのも粋で、好きなところです。

『真夜中遊園地』の2番「綺麗な馬に乗って回っていたい」のところとか、2番で変化球入るの好きなんですよね。チャットモンチー、「単純に1番を繰り返さないぞ!」っていう心意気が他のアーティストよりも強く感じられて、楽しみに欠きません。

 

告白

告白

 
 『告白』という名盤

『生命力』が名曲揃いであることは衆目の一致するところではあると思いますが、やはり商業路線というか、ポップに売り出そうとした痕跡が見て取れるんですよね(そんな中にも若干エゴの漂う『シャングリラ』や『橙』『素直』がぶち込まれているのが凄いんですけど)。また、曲構成も純粋にABサビABサビとなるわかりやすい曲が多いです。

それに対して、『告白』は、『耳鳴り』以前の暗くて曲調がころころ変わる感じも、『生命力』のポップで明るい感じも、全部束ねて完成版として昇華できた感があるのです。それを代表するのが『8cmのピンヒール』であり、暗いところからポップなところまで一曲で満喫できるのが素晴らしいところです。『生命力』で外部のポップスの視点を入れたあとにセルフ・プロデュースを始めたこともあってか、アルバム全体を通してそのバランス感が最高の仕上がりを見せています。最後の『Last Love Letter』『やさしさ』と続くところとか、もはや「これ一枚のアルバムに入ってていいの!?」という感じの名曲揃いで、まさに00年代に残る名盤の一つと言っていいでしょう。

それから、『長い目で見て』にも書きましたがグルーヴ感が最高で、この曲や『風吹けば恋』などでも止まるところがピタッと無音になっていてもう泣けます。いやー、ライブ見たかった……。

『橙』レビュー(後編)

作詞・作曲:橋本絵莉子
6thシングルA面、『生命力』収録。
橙
sheep-three.hatenablog.jp

前編からの続きです

橙

この曲の、というかえっちゃんの歌詞のすごさって、"刺さる"のによく見てみると意外と何言ってるのかわからないところなんですね。
突然「1年前」とか言う言葉が出てきたり、抽象的に歌っていたかと思えば後半で「あなた」が出てきたりと、ストーリー性に十分配慮したくみこんあたりなら絶対にやらなそうなことがどんどん出てきます。例えばくみこんの『湯気』などはきちんと伏線が張ってあり、対句構造も出てきますが、えっちゃんはそんなこと知ったこっちゃなさそうで、本気で思ったことをそのまま吐露している感じですね※。
そして、その目を背けたくなるような激しい本心の歌詞ですから、歌うときも自身の詞に感情移入しながら泣き叫ぶように歌う。『恋愛スピリッツ』や『橙』などのこういうタイプの曲は、初期のチャットモンチーを語る上で欠かせませんね。
※だからこそ『majority blues』は同じ人が書いたとは思えないほど(技術的に)上手くできていて驚くわけなんですが、それはまた追って。

まあ歌詞がわからないと言っても何度か聴いていればわかるのですが、恐らく失恋か冷めかけの恋と言ったところでしょうか。

いつの間にかあなたを傷つけ 思いがけない言葉を発していた

が手がかりになりますね。

そしてもう1つ、「歩く」という行為がこの曲の軸になっています(って書いてみると『さいた』っぽいですね)。

もうこれ以上行かないで

もうこれ以上歩けない

ということなので、さしずめこの曲の全体像としては、
「あなた」を「甘えぬき傷つけぬいた」「私」を置いて、「あなた」が行ってしまおうとしている中、「私」はやはりわがままを言う
……といったところでしょう。

とすると、残るのは「1年前」に何があったのか、です。

あの頃の私は昨日と同じ今日なんて考えなかった

ここ、イントネーションでは「私は昨日と同じ(。)/今日なんて考えなかった」って聞こえるんですが、実際はたぶん「私は[昨日と同じ今日]なんて考えなかった」なんですよね。ちょっと難しい。
ここを考えるために冒頭を見ると、
「何も手につかない 白黒の瞳で」
とあります。「白黒の」は『おとぎの国の君』で「君がいない景色」の形容として出てきますね(作詞はあっこですが)
sheep-three.hatenablog.jp

つまり、現在の時点で「あなた」はいないとすると、「1年前」は「あなた」と出会ったか付き合い始めた(少なくとも「あなた」はいた)わけで、毎日が鮮やかだったわけです。
だから、意味としては、「(1年前は)(今のような)単調な日々が続くとは思わなかった(ほど毎日鮮やかだった)」ということになります。

……と、だらだら書いてきましたが、ざっと意味は取れましたね。字面だとやっぱりこう難解なのですが、歌で聴くと妙な説得力があって、特に考え込むこともないんですよね。これが"本音"の力なのかもしれません。

なぜ『橙』なのか

では、タイトルです。みんな言及しませんが、タイトルの『橙』ってなんですか? って思いませんか?
曲中に出てくる色は、「白黒」だけで、寧ろ無色なんですよね。そこに「橙」という強い色をぶつけたのはなぜなのか。

・黄昏(たそがれ)説
……まあ、たしかにありそうですよね。夕暮れというか、黄昏の雰囲気を出したかったのかも。
「もうどこにも行かないで」と喚いても、嘆いてもあなたは遠くへ行ってしまう……そんな時の心情に色をつけるのだとしたら、「橙」なのかもしれません。

・橙説
……実際の果実としての橙です。橙というと鏡餅の上に乗っかっているアレです(蜜柑じゃありません!)。基本皮も分厚く生食には向かない橙の実めすが、木に生ったのをそのまま放っておくと大抵の柑橘類が悪くなるのに対し、橙だけは年を越した頃でも黄色のままなんですね。そこから正月の縁起物として鏡餅にも乗っかるようになったそうです。
「1年前」という言葉が出てきますが、「あなた」の気持ちが変わってしまったのに対して、私の気持ちは変わらないんだよ……というメッセージが果実の橙に込められているのでは? ……いや、深読みしすぎですかね。

同じアルバムでは『女子たちに明日はない』『ヒラヒラ開く秘密の扉』と長いタイトルが続くチャットモンチー。その中でも漢字一字で異彩を放つこのタイトルですが、由来は何にせよ曲全体の雰囲気を貫く色はやっぱり橙色に感じられ、ベストなタイトルだと思います。
この謎も含めて、チャットのタイトルではかなり好きな一曲です。

橙

4000文字はゆうに超えましたかね!? これ、ブログとしては明らかに失敗なんですけど、僕が思いの丈を書いて、多くのではなくコアな読者の方が満足して下さればそれで結構です…、w 僕は活字中毒なので好きな映画も音楽もいっぱい文章を探してしまうんですよね。自分とそんな人のために書いています。

『橙』レビュー(前編)

作詞・作曲:橋本絵莉子

6thシングルA面、『生命力』収録。

ミカヅキ』同様、高校時代の一曲。
橙

橙

橋本絵莉子作詞作曲の代表格といえる作品でしょう。

チャットモンチーという日本語ロック

この曲の少し気になるところは、やはり冒頭のジャパニーズ・イングリッシュですよね。
ゼァイズナッシンアイキャンドゥーフォーユー、と片仮名で歌っているイメージです。ここで言いたいのは、えっちゃんの英語が下手だよね、ということではなく、ひとえにチャットモンチーが日本語ロックバンドである、ということです。

【以下余談】
そもそも、ロックの本場で使われている英語と、普段使っている日本語とはアクセントの体系が全く異なります。
日本語は音の高低でアクセントをつけるのに対し、英語は強弱でアクセントをつけるのです。
たとえば、何の曲でもいいのですが、仮に椎名林檎で比較してみれば、『歌舞伎町の女王』が「蝉の声を聞くたびに」を一音一音、せ・み・の……と発音していますが、『ここでキスして。』の「I'll never be able to give up only you...」は、アィネェッバッビィエーットゥー……と発音されます。これが強弱アクセントです。
【余談終わり】

この曲は"There is nothing I can do for you"とありますが、全然英語の発音ではなく、日本語然とした、カタカナっぽい発音ですね。鮮やかなまでにジャパニーズ・イングリッシュなんですが、これがこの曲の良さでもあります。

一音一音をしっかり発音する、日本語ならではの発音を音符に一個ずつのせて"語るように"歌うことで、聴く側は歌詞を見ないでもしっかり聴き取ることができます。だからこそ、チャットモンチーの(ここではえっちゃんの)素直な歌詞は、より"刺さる"のです。

この曲のサウンドですが、ギターはカッティングをせず、ジャーンジャーンジャーンジャジャンジャーンとギターのストロークが鳴り響いて耳に残りますが、そのリズムと歌の伸び方とがマッチして力強く心に響いてきます。ベースやドラムも他の曲より手数が少ないですが、少ない分一音一音のパンチが効いているというか、「重い」んですよね。
最初はシンプルな曲だなーと思ったんですが、やっぱりこのシンプルさじゃなきゃ伝わらないものだよな、と思う今日この頃です。

* * *

日本語ロックの歴史、といえばやはり「はっぴいえんど」を思い浮かべる人が多いでしょうか。日本語でロックを歌う試みは彼らが始めて定着しており、チャットモンチーが登場するころは既に日本語こそスタンダードになっていました(寧ろハイスタなどが驚かれたくらい)。
しかし、橋本絵莉子の曲の特徴は、やはり「日本語ロックを聴いて育った世代である」ことに由来していると思います。先ほどあげた椎名林檎は音楽的に洋楽の影響を受けていますが、チャットモンチーは基本的に邦ロックの成分でできているのではないでしょうか。根本に日本語の曲しかないからこそ、そもそも曲作りの時点から日本語のための曲が出来るんだと思います(チャットモンチーはたいてい詞が先ですし)。
そして、この『橙』こそ、「日本語を響かせる」のに注力した結果の一曲なのだと思います。
『恋愛スピリッツ』『CAT WALK』『やさしさ』あたりも響いてくるのですが、これらはやはり優秀なボーカリスト橋本絵莉子の歌声をどう際立たせるかよく分かっている作りだなと思うのです(そりゃ自分で書いてるから当然ですが)。

生命力

生命力

歌詞に対してここぞという曲で(詞先なので)使っていた、この力強く熱唱するボーカルなんですが、『告白』より後はあまり見られませんね。若さだったのでしょうか(10代の生意気なコメント)。

後編では歌詞について書いていきます。

sheep-three.hatenablog.jp

『長い目で見て』レビュー

作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子

『告白』収録。3人でボーカルをつなぐ曲です。

 

Live映像を見たのですが、盛り上がりが良いですね。

あまり真面目にレビューを書くような曲ではなく、アルバム中の遊び心みたいな曲ですが、3人のグルーブ感が感じられる一曲です。

長い目で見て

長い目で見て

  • provided courtesy of iTunes
グルーブ感 

基本的には同じリズムが響いているのですが、ダダッダッダッダというところなど、切るところがぴったり合っていて心地良いです。

まあ言葉で説明するというよりか、実際に聞いてみてほしいのですが……。

 

ギターとドラムはシンプルですが、特にベースはメロディーを奏でているので、かなり歌いづらいはずなんですが、誰が歌っているときでもぴったりビートが進行しています。

3人でAメロを回したあと、間奏を挟んでサビ、間奏、A'と続きますが、このBメロに当たる部分がギターのメロディーだけというのも面白いですが、とてもキャッチーで気分を高めてくれます。ライブでこれ見れたら泣いちゃうよね……。

 

何と言ってもこの曲はラストのえっちゃんのロングブレス(笑)が圧巻です。何小節伸ばしてるんですかあれ。

酸欠気味になって「……い目で見てよ、もっと」と言うところの声は声量薄くなってて可愛いです。

この曲聞くと特に2人が大人っぽい声なのに対してえっちゃんが幼い声を使っているのがわかりますよね。元からというのもあるのでしょうが、曲調に合わせてあっけらかんと歌っているようなところもあり、使い分けの幅が広いボーカリストだと思います。

 

"気の抜けた本音"の歌詞

歌詞はというと、例えば

「どんどん長い目で見て 待ちすぎて首も長くなって まるでエイリアン そうか! エイリアンは人類の未来」

など、脱力した歌詞ですが、案外本音が表れた曲なんじゃないかと思っていて。

『ハイビスカスは冬に咲く』『やさしさ』など、それぞれ作詞家は違いますが、特にこのアルバムの裏メッセージ的なものとして、「ありのままを肯定する」ことがあると思います。そのメッセージが一番出ているのがこの曲で、楽しげな曲調ですけど結構ストレートに自己を押し出していますよね。それがこの曲の良さであり、ひいてはチャットモンチー全体の良さでもあると思うのです。

そしてやっぱり、「長い目で見る」を持ってきたワードセンスも巧みですよね。

 

告白

告白

 

 

『the key』レビュー

作詞:橋本絵莉子 作曲:チャットモンチー

チャットモンチー・メカ」体制で作られたラストアルバム、『誕生』収録。
誕生(通常盤)
電子音が多いイメージの『誕生』では数少ない、ロックバンド的サウンドな一曲(あとは『砂鉄』くらいか?)。

the key

the key

サウンド

バリトンギターという、低音もカバーできるギターで弾いているようです。良い音してますね。
ドラムはサンプリングしたのと電子音と両方ある、と聞きましたが、この曲の特にサビは生音な気がしますね。ドラムの強いドンドンというリズムが印象的です。
全然曲調は違いますが、このドラムといい、アウトロに歪んだギターソロがある感じといい、どことなく『ウィークエンドのまぼろし』を思うんですよね。『誕生』だけあって原点回帰みたいな意味もありそうですね。
何にせよ、サウンド的にはガラッと違っても、それでもやはり「チャットモンチー」を感じるのがこの『誕生』です。

歌詞

歌詞は……ごめんなさい、レビューと銘打っておきながらあまり語れないんですよね。橋本絵莉子ってやっぱ何考えてるかわからないなぁと。そう感じたラストアルバム。

くみこんの歌詞は物語立てていて、きちんと一つ一つの言葉に意味を持たせているし、あっこも素直に感情を吐露している感じ。それに対して、結局えっちゃんの歌詞って、なんか心の澱みをさっと浚ってきたようなイメージがあって、少ない言葉の一つ一つに重みがありながら、やや難解なのです。ただ、言葉のチョイスにかなりドキッとさせられることが多いですね。

今回は特にメカ体制で音重視なのか、歌詞は短めになっていまして、その分背景はうまく取れません。でも解釈することもなく、頭ではなく心で聴けるようなのがえっちゃんの歌詞だよな、とも思います。

それこそ「the key to my mind 」ですから、「心を開く」といった趣旨の話をしているだろうことはわかります。心の鍵にまつわる話。

遠くから見て綺麗だから 真夏の歩道橋を歩く ゆっくり間違いながら

難しいですが、倒置が効いていて味があります。人の目を気にして、つらいところへ出ていくというところ。続く冷たい畳のところは、心を開かないがゆえに孤独なのだ、という風に解釈できるでしょうか。
そして、サビにはバリエーションがありますが、どれも〈肯定〉のニュアンスがあります。
この、「あなた」を肯定し、「私」を「あなた」に肯定してもらおうとする姿勢は、『シャングリラ』と同様、チャットモンチーの一つのスタンスだと思います。*1

アルバムで3曲目という重要な(1曲目はほぼインストなので)位置に置かれていることからもわかる通り、この曲が一つのチャットモンチーの完成形で、えっちゃんからのラスト・メッセージなのだと思います。

誕生(初回生産限定盤)

誕生(初回生産限定盤)

……えっちゃん作詞の曲で言えば『たったさっきから3000年までの話』『the key』でチャットモンチーは既に完結していて、『びろうど』で新しいところに入りかけて終わっているようなイメージがあります。やっぱ全然歌詞の調子が違いますし。ここはまた『びろうど』で述べましょう。

*1:子供へのメッセージでは、という意見を目にして、なるほどなぁと思いもしたのですが、なんかもっと普遍的なことを歌っているような気もしてくるのがこの曲の面白いところです

『おとぎの国の君』レビュー

作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子

『耳鳴り』収録。

 

1stフルアルバムの『耳鳴り』は、かなり暗めでロックな曲が多く、以後のポップな路線とは大きく異なります。この曲もその一つで、しかしエンディングにかけて力強くなります。

もう一つ、『耳鳴り』では曲調がガラリと変わってしまう曲が多いように思いますが、この曲も、Aメロ→B→A→B→C→サビ→A'、のように展開します。

 

おとぎの国の君

おとぎの国の君

  • provided courtesy of iTunes

 冒頭はベースのメロディーから始まります。これもかなり『耳鳴り』特有のサウンドに聴こえますが、あっこのベースは安定感と包容力があるのでとても好きです。1番と2番の間(?)のささやかなベースも印象深いです。

 

そしてそのあっこが書いた歌詞。

曲の展開と同じく2つのAメロが対句形になっており、「あれは月にさらわれたんじゃないだろうか」を境にサビへ、そしてまたAメロに戻ってくるという詞の展開が美しいです。

特に、

君なしじゃただの白黒の絵 味気ないんだ

ださくてかっこ悪い僕のこと忘れないでいて

あたりは、かなり刺さる歌詞じゃないでしょうか。

 

『染まるよ』もそうですが、こういう素直な描写にかけては福岡晃子の腕が光るところですね。

くみこんはもっと文学的というか修辞的。えっちゃんはナルシスティックでダークな感じですかね。作詞家3人の違いも相まって、素晴らしいバンドだと思います。

 

Aメロの声が掠れたような歌唱からの、サビの力強い歌のギャップもまた良いですね。サビのメロディーは、言ってしまえば「普通」ですが、Aメロのトーンを二回繰り返して聴いてきたリスナーには強く残るものがあります。

サビの全員歌唱も、初期っぽさはありますが、これが後にチャットモンチーとして完成されていくのかと思うと感慨深いですね。多すぎるまでのコーラスはチャットモンチーの個性ですものね。

 

 

耳鳴り

耳鳴り