『ウタタネ』レビュー
5thアルバム『変身』収録。
後ろに『満月に吠えろ』が控えているとはいえ、アルバムを締めくくる部分に配された、いかにもチャットらしいといえばチャットらしいバラード曲です。
演奏
橋本:エレキピアノ、ボーカル
福岡:ドラム
ルーパーなどは使わず、シンプルな構成。ライブでは途中で交代とかもしたそうな。それにしてもチャットモンチーはサポート含めて皆色々な楽器が使えますね。
「これまでのチャットモンチー」を感じる曲
このアルバムでは数少ない「これまでのチャットモンチー」が垣間見える曲で、メロディーラインはいつもどおり素晴らしい、というか好きですね。ただ、やっぱり驚かせてくれるのがこのエレキピアノの音色です。エレキギターっぽい音色で、初めて聴いたときはどっちなんだろうかと結構迷いました。
このエレキピアノの歪んだ音が急激に上がる間奏などはずっと聴いていても飽きが来ませんし、音の厚みもあります。*1
最初は弾き語りで、途中からドラムが入ります。えっちゃんがギター以外の楽器を使う時ってリズムがもたつきがちな傾向があると思うのですが、この曲も例に漏れずキーボードは重いです。ただそのリズムや音色も相まって、歌詞の世界に合った、重苦しい足かせのようなものから開放されていく雰囲気がうまく伝わってきます。
歌詞はえっちゃんへのラブソング?
これ今まで作詞作曲えっちゃんかと勝手に思っていたんですが、あっこびんなんですね。そう思ってみてみると、あ~。腑に落ちますね。
まず見てみましょう。
囲っていてくれ ずっと
正しくても 間違っていても
ぼくは きみの中に 囲われていたいだけ
歌詞を読んでいくと、鳥籠の鍵を開けても飛び立とうとしない鳥の目線で飼い主(?)への愛を歌っている曲だとわかります。実利とかではなく、ただ傍にいたいんだという切実さが美しいです。
ところで、
土も水もいらない
照らし続けていて
春の中に捕らわれて 安らかに 穏やかに
……このへんって、「あの曲」を思い出しませんか?
そう、私は『草原に立つ二本の木のように』の、一種のアンサーソングじゃないかと思うんです。
あなたという傘の外
虹のさす世界を 見てみたい(『草原に立つ二本の木のように』)
春には 泥だらけの足元
たくさんの花を 咲かせてみせるから
見ていて 見ていてね(同)
くみこんはこの曲に恐らく脱退の意志を込めて、えっちゃん以外のところで戦ってみたい、という強い決意表明をしています。
それに対して、脱退を告げられた時真っ先に「続けるから」と言ったあっこびんは、『草原に立つ二本の木のように』を踏まえたのかどうかはわかりませんが、少なくとも自分の決意表明として、えっちゃんの傍にいることが私には一番なんだよ、というメッセージを送っているように読めてくる気がします。深読みしすぎかもしれませんが。
本アルバムにおいて、えっちゃんが『変身』『少女E』『初日の出』あたりで「どうせ嫌いになんてなれないだろう?」とか「進んでいくしかないんだ」とか、「戻れない」ことを強調しているのに対し、あっこびんとの(良い意味での)姿勢の違いがよく表れているんじゃないかな、と思います。
こう読んで見ると「自由の空」なんてフレーズも、くみこんを失った喪失感のあらわれのようにも感じられてきますが、深読みをせずとも、この開放感と穏やかさに包まれた雰囲気はやはり聴いてて心地が良い一曲です。
*1:このへんは『素直』あたりに比べて良くなった点なような。『素直』も好きなんだけど。