三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『サラバ青春』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

『chatmonchy has come』収録。

サラバ青春

サラバ青春

サラバ青春

有名な卒業ソング。卒業ソングって個人的にはあまり好きじゃなくて、感傷的すぎるじゃないですか。ただ、どストレートなメッセージにも関わらず、この曲はチャットモンチーの良さの方が勝っています。

歌詞の中の名フレーズ

くみこんの歌詞。『砂鉄』の歌詞が届いたときの二人の反応は、「わぁ、学校だ!」だったらしいんですが、くみこんの歌詞の中に出てくる中高生ってすごいリアルなんですよね。とにかく青年期の描き方が素敵。『湯気』『雲走る』『あいまいな感情』あたりとかどうですか。

歌詞の全体像はぜひ聴いて感じていただければと思うんですが、特に3箇所だけ。

 何でもない毎日が本当は

記念日だったって今頃気づいたんだ

一番印象的なフレーズ。昨年、流感で色々失ってからこれに気づかされました。チャットが完結してしまい、音楽ライブ自体がなくなってしまい、そういうもののありがたさって亡くならないとわからないんですよね。すごく普遍的なメッセージで、こういうのを素直に歌われると、どうせありきたりな卒業ソングだろうなんて買いかぶっていたひねくれ者の心にも、ぐっさり刺さってしまいます。

くみこんは、「何でもない毎日が記念日だって」わかっていたのかもしれません。

本当にこのまま終わるのかってことさ

こちらもありそうでなかった言葉。いや〜わかる、この感じ。卒業式の前日も、終わってもなんか卒業するって実感はなくて、身を持って知るのは卒業式の次の日から、登校しなくなったときなんですよね。欲しかった言葉を代弁してもらっている感じがあたたかいです。

真っ暗闇に僕ひとりぼっち

ピンク色の風もうす紫の香りも音楽室のピアノの上

大人になればお酒もぐいぐい飲めちゃうけれど

もう空は飛べなくなっちゃうの?

コードの変化する展開と合わせて、ここは「泣くぞ!」っていうポイントです。

思い出はモノクロームとはよく言いますが、むしろ逆に視覚に訴えかけてきます。孤独な僕と、学校の風や香りを色で対置していますが、この色がまたなぜか腑に落ちる。詩として完成されています。

そして「空は飛べなくなっちゃうの?」です。無自覚に、しかしなにか大切なものを置いてきた感覚。子供の頃は空を飛んでいたな、という把握は大人視点からの振り返りで、子供は普通自分が空を飛んでいるなどと思いもしません。しかしそこを「飛べなくなっちゃうの?」と言わせたところが、大人と子供の境目、まさに卒業という時期を明確に表現できているのではないでしょうか。

俯瞰的な歌詞

「飛べなくなっちゃうの?」もそうですが、結構メタ的というか、あるいは大人の視点からも俯瞰してみているような感じがしませんか? たとえば、

きっといつの日か笑い話になるのかな

あの頃は青くさかったなんてね

なんて歌詞は、普通にただ悲しんでいるだけの人ならこんな言葉は出てきませんよね。どこか冷めた視点で見ながら、でも簡単には割り切れない。この矛盾が、陳腐な言葉で言えば「青春性」を象徴しているのではないでしょうか。

これを踏まえると面白いのが、

空はいい感じの夕焼け色で

ねぇ。すごくないですか? お誂え向きだよ、なんて夕焼けを見ながら考えているってことですよ。「いい感じ」のものをどう表現するかで四苦八苦するのが詩の世界なのに、まんま「いい感じ」って形容しちゃいました。

この言葉、詩を書こうとしていたらとても怖くて書けません。大胆な手に出たなぁ、と思わされます。すごい。でもこの主人公像からすると、理解に難くない表現だと思いますね。*1

ロックなサウンド

曲調も歌詞の内容もバラード調で、ともすればありきたりにもなりかねないこの曲なんですが、CD音源は全然そんな感じではなくて、チャットモンチーのオリジナリティをひしひしと感じます。

ドラムなんですが、くみこん在籍中のチャットの中では最もと言っていいくらい主張が控えめです。音量もそうで、基本的に静かな世界を作ろうとしています。*2

しかし、これをぶち壊すのが二人で、ベースはめちゃくちゃ大音量ですし、ギターは一番ではチャカチャカ軽い音が前の方で鳴ってるだけで、全然しっとりしてないんですよね。ああこのギャップがもう最高で最高で。

それから一番の終わりでは一気に音が開けた感じになって、ここも気持ち良いんですが、そこからはロック全開という感じ。

そんな中で、くみこんの軽めのタム回しが音に彩りを与えています。あと、時たま入るあっこびんのベースの高音は、チャイムっぽくて良いですね。

そして最後、満を持してのギターソロ。結構長めの曲で、繰り返すメロディーで焦らして焦らしてからの1分近くあるギターソロですが、チャットモンチー史上No.1で「鳴いて」ます。ギターが。

歌詞としては冷めた見方だった主人公が、それでもやっぱり割り切れない! って言う流れのラスサビなので、その後はもう溢れ出る感情を全部ギターにぶつけた、というような響きになっています。

……少し褒めちぎりすぎましたか? いや、でも卒業ソングってていで、このギターソロを以てまとめようという考えに至るのはすごいなぁとただただ感服するばかりです。

音作りのいしわたり淳治氏の功かもしれませんが、ただチャットモンチーを貫くロック魂みたいなものを感じさせられる一曲です。

感想

自分が卒業生なのでずっとヘビロテしています。本当に泣かせられますね。

DVDには、アコースティック系のしか入ってなくて、どうしてもバンド形態のサラバ青春が見られないんですよね。でもこの曲、歌詞やえっちゃんの泣きそうな歌い方も抜群に良いんですが、それ以上にギターソロが見所の曲じゃないかと勝手に思っているんですよね。

未公開映像とかどこかにあったら運営の方公開してください、お願いします(一礼)

DVD

チャットモンチーレストラン メインディッシュ』Disc2 生命力みなぎりTOURより。

橋本:歌 福岡:エレキピアノ 高橋:ピアニカ

『CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE』

橋本:歌 福岡:グランドピアノ

*1:冷めた主人公といえば、斉藤由貴の『卒業』も好きなんですよね。天下の松本隆です。

*2:チャットモンチーのバラード、基本的にベースとドラムの大音量の中でえっちゃんがか弱く頑張る、系の曲が多いので、これかなりレアな気がします