三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『惚たる蛍』レビュー

作詞・作曲:橋本絵莉子

chatmonchy has come

『chatmonchy has come』収録。自主制作盤チャットモンチーになりたい』にも収録されていました。

公式にもファン的にも初期の名曲との扱いのようで、武道館のラストワンマンでも演奏され、ベストDVDにも収録されましたね。

武道館では登場から『誕生』の曲を6曲やったあと、えっちゃんがアコギに持ち替え、「古い曲、やるね〜?」と言ったあとに始まりました。この曲のイントロが流れたとき、観客席から嬉しい悲鳴が上がっていたのが印象的でした(なんせ、前にやったのが数年前というレベルだったので)。

惚たる蛍

惚たる蛍

歌詞

いかにも初期のえっちゃんっぽい歌詞です。

あぁ 私はあなたのその目に左右されていて

あぁ 私はあなたにこの目も向けられない

というところから、「あなた」に振り回される私が描かれています。

あの輝きを思い出すと 今も恋い焦がれるけれど

どうやら過去にあった恋を忘れられない、といったところでしょうか。

ひとりで泣いても意味がない

ひとりで光っても

この、自らを蛍に喩えた表現が滑らかに出てくるくだりは、流石巧いなぁと思わされます。

そして最後、

ほ ほ 蛍来い

ほ ほ 蛍来い

童謡『ほたるこい』のメロディと歌詞を引用してきています。

まずこの部分のコーラスが美しいのは言わずもがなですが、恋愛について歌ってきて、感極まったところでのこの童謡が出てくるというのは、やはり子どもと大人の間で揺れ動く、思春期の心情をよく表しているのではないでしょうか。

いままで恋愛についてよくわからずに生きてきたけれど、「あなた」の目に左右されてしまうという、初めての体験をしているわけです。その初恋の儚さと重ね合わさるかのように、蛍の光がちかちかと光っては消えていく——なんと幻想的な光景ではありませんか。『ツマサキ』然り、若さと未熟さに包まれたデビューミニアルバムならではの名曲だと思います。

まずイントロが素敵です。静かなギターとベースの絡みです。個人的に、ギターとベースが同じメロディを奏でているのが好きなのですが、こうしてハーモニーを奏でるのはさらにグサッときます。良いですねー。『バースデーケーキの上を歩いて帰った』とかも同じくです。

この、ギターとベースが左右対称になって動き回る感じ、最高です。やはりギターだけでなくベースも均等にメロディを奏でるシーンは、スリーピースの醍醐味の一つではないでしょうか。

もう一つ、2番の「いつだって」の後のミュート→アルペジオ→強いストロークの流れが良くて、歌詞中の「かよわい女の子」というイメージから自立していくような主人公の姿も見えてきます。このストロークは『耳鳴り』にも特徴的ですが、チャットモンチーの初期衝動を代表するような演奏だと思います。

ライブ

『惚たる蛍』のライブ映像はどれも抜群なので、ちょっと長文を書かせてください。

チャットモンチーのすごい2日間in日本武道館(2008)

チャットモンチーレストラン メインディッシュ』の武道館の映像は、ベストDVD『BESTMONCHY 2 -viewing-』にも収録されています。

チャットモンチーのすごい2日間in日本武道館で着目したいのは、アップテンポで盛り上がるシーンよりも、むしろ初期の、粗削りでありながら心に刺さるようなバラードの数々が、聖地・日本武道館で演奏されていることです。『橙』『恋愛スピリッツ』そして『惚たる蛍』など、言っちゃ悪いですがまだ高校の雰囲気を感じるような(良い意味で)洗練されていない曲が、こうして武道館の聴衆を聴き入らせているのがすごい。

見た目の華やかさではなくて、この無骨なメロディの中にこそ、聴いている人の琴線に触れるところかあり、そして何よりそれをチャットモンチーが演奏していることに、何者にも代えがたい魅力があります。

この曲は特にイントロが静かで、「星が瞬くあの道」の情景にも見えました。

『スープ』の『恋愛スピリッツ』も泣くほどに良いですが、武道館のほうではアウトロの激しすぎるギターのストロークに良さがあります。

チャットモンチーは花よりAX(2007)

チャットモンチーレストラン デザート』のAXの映像、こちらも相当良いです。見ていない方は下を読まずに見てほしいぐらい。

なんと言ってもイントロを聴いてください。3人のコーラスのハモリ。しかもくみこんは「だから私はあなたを思っている」と歌っているではありませんか!*1 最初に聞いたときは鳥肌が立ちました。このイントロだけで一気に心を惹きつけられて、本当に感動しました。

『恋愛スピリッツ』の実らないであろう恋のイメージと、この曲の切なる思いがオーバーラップして、見事な世界観を作り出しています。

CHATMONCHY LAST ONEMAN LIVE(2018)

まさか。の選曲です。ラストライブでこの曲をやるとは。何年ぶり!? しかもアコースティックです。アコギとパーカションではなく、アコギとベースだけ、というのが曲の良さを存分に引き出しています。ベースとの絡みは健在なのですが、どちらも音色が柔らかい。昔の恋をやさしく思い出すような雰囲気で、『惚たる蛍』→『染まるよ』の二曲が、このライブの中で一番デビューからの時の流れを感じさせるシーンでした。『染まるよ』は逆にハードなオルタナに生まれ変わっていて、じつは一番好きな『染まるよ』かもしれないんですが、まあその話は別の時に。


www.youtube.com

*1:『恋愛スピリッツ』の歌詞