『ウィークエンドのまぼろし』レビュー
『耳鳴り』収録。
近年は長らく演奏されていなかったのですが、ラストワンマンで演奏されたことでも話題になりました。
(↑せっかくなのでライブ音源を貼ってみます)
この曲はなんといっても変則的なリズムと歌詞の光る曲です。
詩としての歌詞
広がるのは ただ 切れ間ない青のコラージュ
少年はバスケットボール 枕にして
空に浮かぶ明日を見ている
えっちゃんは「歌詞は詩である」、くみこんは「歌詞はあくまで詞だ」と書いていましたが、これは相当「詩」に近いものだと思います。
ずっと読み進めればわかりますが、叙景詩です。「さびしい」とか「悲しい」と感情語をストレートには述べず(ふつう歌詞はわかりやすさを優先するあまり、率直な言い回しが多い)、日曜日の色々な情景が描かれます。
特に腕が光るのが、2番のサビ。
ねぇ、いつまでも人は人と手を繋ぐのかな
ねぇ、いつまでも人は人を抱きしめるのかな
ねぇ、いつまでも春の次は夏なのかな
最悪な日曜日
この前で、
手を繋いで恋人たち 幸せそうに歩いてる
とあり、やはり日曜日ですから、きっとカップルのデートしている風景なんかを見たのでしょう。しかし、自分には相手もなく……。
無情感とそこはかとない寂寥に苛まれる様子の作者(思春期〜青年くらいの年だと思いました)の様子が実感をもって見えてきます。
ただ、注意したいのは、これは失恋ソングとか、恋がしたいとかいう曲ではないんですね。
「ねぇ、いつまでも……」からもわかるように、もっと根本的な諦観というか、どこか冷めた見方なんですよね。どちらかというと、恋人ができないというよりか、興味がない、といった感じの人。ただ、日曜日は少しく寂しく思えるのです。
さて、これを踏まえてタイトルに立ち返ると、『ウィークエンドのまぼろし』です。
かっこいいし、雰囲気も伝わってきますが、「まぼろし」って難しいですね。何を指しているのか、考えてみると結構面白いかもしれません。
変則的なリズム
初期らしく、くみこん得意のマーチングドラムが軸になっているのは他の曲でも見られますが、とにかくリズムが難しく、そして面白いのが特徴です。
特にライブ映像を見るとわかりやすいですが、冒頭から特にカウントもなく、えっちゃんの歌に合わせてスネアのフィルインとなります。
その後も、あっこびんがベースで安定したリズムを刻む中で、えっちゃんとくみこんは「ジャッジャッジャッ」という不規則な裏拍を続け、それがアウトロまで残るので印象深いてす。
歌詞も言葉を詰め込んだような形で、なかなか歌を合わせるのが大変そうですが、少なくともCDではこのメロディーと歌詞すべてが複雑に混じり合った感じが奥行きを見せています。
この曲はやはりメリハリの効いた曲です。それこそギターのカッティングも、サビ直前のベースの音も、2番サビ〜アウトロの静かなところも、きっちりと決まっているので気持ちよく聴けますし、そのメリハリと複雑なメロディーのギャップが良さを醸し出していると言えると思います。
相当かっこいい曲で、実際ライブで見られたら良いだろうなぁと妄想。
うーん、ただ、『チャットモンチーレストラン スープ』の野音ライブは、少し入りのズレが気になりました……。あの冒頭は、ライブの面で考えると難しいですよ、やっぱり。