作曲:Kori Gardner / Jason Hammel
日本語詞:橋本絵莉子
アメリカの二人組Mates of Stateの楽曲『Proofs』をカバーした曲。『ハテナ/夢みたいだ』収録(A面扱い)。アルバムには未収録。
楽曲
原曲の雰囲気がかなり維持されているので、特にコメントもしません。ただ原曲の時点でめちゃくちゃ良いですね。ちょっとガレージ・ロックっぽいというか、インディーズの匂いがぷんぷんするこの曲のカバーを、『ハテナ』と抱き合わせにしたのもぴったりです。
原曲から少しアレンジされている点はいくつかあります。
- キーボード(たぶん)+ドラム → ギター+ドラム
- 楽器の変更に伴う一部メロディの変更(ギターパート)
- ドラムパートの変更(恐らく叩くシンバルやフィル程度の差)
- 男声コーラス → 女声コーラス
- 前奏の追加
- 間奏部分の小変更(「やっぱり帽子は…」の部分)
当然っちゃ当然の変更も多いですね。ただ個人的にはこの前奏の追加がかなりツボです。いい味出してるなあと思います。
オリジナルの前奏
この前奏の(良い意味での)"気持ち悪さ"って、チャットモンチーの中で指折りのものだと思います。個人的には大好きです。
『恋の煙』『Y氏の夕方』など、最初の一小節を聴いたときに予想した方向とは別の方向にイントロが展開する曲ってチャットモンチーにいくつかあります。どういうことかというと、例えば『恋の煙』は、最初のギターの高音を聴いたときにはそこが一・三拍目だと思い込むのですが、ドラムなどが入ると実はそこが裏拍(ニ・四拍目)だと気づく、という裏切りがあります。『Y氏の夕方』は、ドドッっていうドラムの音から、それこそ『テルマエ・ロマン』のようなロック方向に走るのかと思っていると、なんと可愛らしいアルペジオが入ってきて、不思議とおとぎ話のような空気感に持っていかれます。最初聴いたときはあれ!? 裏切られたなあ、という感想を抱くんですよね。
この曲も、速くて力強いドラムに渋いギターの低音が足されて、そっちに行くのかなあと思わせておいて、次の瞬間にはすぐドラムが1/2のテンポになるという裏切りが含まれています。ドラムが1/2になるのって、普通の曲ならCメロだけそうして雰囲気を変えるのに使うことがあるんですが、冒頭すぐに変えるってのはびっくりします。ここの前奏を足したことで、カバーとして一つオリジナリティを産んでいるのではないでしょうか。
日本語詞
原曲の詞は、なんというか筆舌に尽くしがたいのですが、曲のポップさに比してかなり「重々しさからの解放」のような雰囲気があり、その点ロック寄りかもしれません。しっかり読み解けていないので、すみません。
一方、えっちゃんが一から書いた歌詞は、驚くくらい明るいです。テーマは想いを寄せる人から電話がかかってきたシーン。心弾む感じはたしかに共感できますが、なんと言ったって明るすぎて軽すぎてびっくりしてしまいます。「やっぱり、ランチはパスタ?」とか。(笑)
ただ、中期チャットモンチーの特徴として、軽く愛を歌えるようになったことが挙げられると思います。ライトに歌ったからと言って思いが軽くなるわけでもないのがポイントです。むしろ軽くて明るいからこそ、その裏に切実さを感じるのが特徴で、なかなかできるものではありません。タイトルの"夢みたいだ"も、シンプルではありますが、なかなか腑に落ちる言葉ではないかと思います。*1
最後に
カバー曲なのでアルバム/ベストアルバム未収録なのは当然なのですが、ただし二人体制のチャットモンチーがこれをA面として世に放ったのは意味あることなんだろうなあ、と思います。後にも先にも、カバー曲がA面になっているのはチャットモンチーでこの曲だけです。
『夢みたいだ』の曲作りを聴いていると、Mates of Stateからチャットが受けた影響の大きさを感じて取れます。そのリスペクトと愛を込めて、そして新たに広めるという意味も込めてのカバーなのではないかな、と思いました。
『カリソメソッド』レビュー - 三匹の羊/チャットモンチーsheep-three.hatenablog.jp
*1:軽くて切実な愛は『謹賀新年』『コンビニエンスハネムーン』『ふたり、人生、自由が丘』あたりからも感じられます。