三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『少女E』レビュー

作詞・作曲:橋本絵莉子
『変身』収録曲。

2ピース体制で収録されたアルバムです。音の少なさを工夫と演奏でカバーしていて、本当に強いサウンドを感じます。

少女E

少女E

少女Eっていうのはきっと絵莉子のEですよね。
「A型は几帳面だからいつもてんびん座で占う」
ってありますけど、えっちゃんは10/17生まれらしいですし。

だとすると、かなりえっちゃんのロックな部分がストレートに出ている曲ですよね。歌詞を見てもらえばわかりますけど、例えば
「隙を見せたらやられるんだ 過去に」
なんかはチャットモンチーの、特にくみこん脱退後の数度の「変身」の原動力になっているフレーズな気がしますよね。
「今」に甘えないぞ、という自己暗示的な意味合いもある一曲ではないでしょうか。

サウンドもまたとにかくかっこいい。個人的に『変身』は一番ロック色の高い、良い意味で攻撃的なアルバムだと思っているのですが、特にイントロがどの曲もクールですよね。
この曲もその一つで、四つ打ちのバスドラム→エレキの高音(名前がわからない)→エレキのメロディーと音が増えていきますが、特に音の少なさを感じず、寧ろ充実して聴こえます。
2人体制への「変身」後、『満月に吠えろ』ではまだ音が少ないシンプルな作りに聴こえていましたが、段々と『ハテナ』でハーモニカを使ったり、ギターレスの曲を作ったりするうちに音が厚くなったように思います。アルバムのオリジナル曲はそういう点でハイクオリティに仕上がっているのではないでしょうか。

あっこのドラムは、メジャーバンドのドラムとしては手放しに上手いとは言えませんが、独特の力強さがある上、シンプルなりにタムやシンバルでビートを取るなど工夫がちりばめられています。
特にくみこんを彷彿とさせるタム使いは、まさに「チャットモンチーのドラム」たるに充分でしょう。

ギターも歌詞も力強く響くこの曲は、「『変身』というアルバムを仕上げたのはまだ第一歩で、まだまだ新しいことをどんどんやるぞ」という宣言にも聴こえる一曲です。

変身(初回生産限定盤)(DVD付)

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昨日『共鳴』を書いたら楽器が多すぎて大変だったので、『変身』は楽かなぁと思っていましたが、寧ろ小細工が多くて大変でした……いや、このアルバムのクリエイティビティは眉唾ものですよ。

『きみがその気なら』レビュー

作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子

男陣/乙女団編成(など)で収録された『共鳴』のリード曲。

編曲はチャットモンチー+男陣です。

共鳴(初回生産限定盤)(DVD付)

男陣はドラムのHi-STANDARD恒岡章さん、キーボード(・ギター)のthe chef cooks me下村亮介さんで構成されています。チャット憧れのHi-STANDARDからまさか恒岡さんが入ってくれるなんて……本当すごいですよね。

長くなりそうなのでこの話はいずれアルバムレビューを書いた時に。

きみがその気なら

きみがその気なら

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『共鳴』は『告白』とは別ジャンルですがかなりの名盤だと思っています。その責任重大な一曲目を飾るのがこの曲です。

意外と馴染むシンセ

恒岡さんの軽やかなドラムを合図に、一気に曲が始まります。3ピース→『変身』→『共鳴』と聴いた方には音が多すぎてびっくりしますよね(笑) 特に変身の次だと(笑) その割に、シンセサイザーの音は意外と馴染んでいて、違和感は少ない印象です。

冒頭から歌詞と同じメロディを奏でるのは今までのチャットの楽曲にも多いですし、そのメロディーパートをシンセに譲っただけだからあまり違和感が無いのかもしれません。

それにしてもチャットモンチーは音の引き算がうまいですよね。これだけ多くの楽器があっても、ちゃんと冒頭とサビ以外では音を減らして落ち着かせるような気配りがあります。例えば1番のAメロではシンセがコードを奏でてギターは少なめ。Bメロではギターのカッティングが激しい分、シンセは止まる。2番のAメロになるとそれまでリズムを刻むのに徹していたベースが動き出すので、ギターとシンセは裏拍で登場します。

他にも、ドラムもフィルが少しずつ変わっているなど芸が細かいので、よく聴いてみてください。

久しぶりの(?)歪んだギター

3ピース時代でもやっぱり『生命力』以降はポップな路線に行ってて、特に『真夜中遊園地』のような単音弾きもあり、ギターがクリーンで高い音になっていった気が(あくまで全体的に)して、更に『変身』では楽器が減ったこともあって特にメロディアスなギターだったと思うのですが、ここへ来て純粋に歪んだギターでコードを奏でる、というスタイルが出ています。「(3ピース時代よりも)楽器が増えたから安心できる」というところでしょうか。ギターソロも素直にかっこいいですし、歪んだギター、良いですね。

個人的にチャットのうちハイテンポな曲の良さって、①がっつりロックなのにすんなり入ってくる ②要素要素はロックなのに聴こえ方はポップ の2つがあると思っていまして、そのうちだとこの曲は②で、チャットモンチーの良さが前面に出ている作品です。

*1

休業中にボイトレした?

え、ていうか、えっちゃんの歌うまくなってません? 元から声量はボーカル界でも上位の方だったと思いますが、2人体制の『恋愛スピリッツ』あたりからか、高音の伸びが格段に良くなっている気がするんですよね。サビは高音なのに一番声が出ていて、聴いているこっちまで気持ち良い。

2番の「嘘でつぶして(ぇえ)しまわないで」のところなんかは演歌入ってますけどね(笑) そこまで含めてえっちゃんらしくて好きです。

気になる歌詞

この曲初めて聴いたとき、やっぱり皆さん歌詞が気になりませんでした? 

「きみがその気なら」……。「なら」何なのか? ということ。そして、ラスサビで一回だけ登場する「生命力」というワード。これは……くみこん宛の歌詞なのでは??? と。僕は最初思いました。

うーーーーーーん。しばらく考えたんですが、でも、インタビューであっこが「もともと他の人に書いた歌詞で」みたいな発言をしていましたし、多分違うんでしょう(あっさり)

その線を捨ててもう一度読み直すと、むしろ、無意識ながらに自分たちを応援するようなメッセージになっているのではないでしょうか。

他人には言わない密やかなマグマ

ってめっちゃえっちゃんっぽいですし。

誰もが良い子でいたい世界で君は敵を探している これがエネルギーになるのを知っていたんだね

というのも、斬新な2ピースで手探りながらに「変身」したあっこだからこそ書ける歌詞だったのでは?

実際『変身』時代に書いた曲だと言いますが、何にせよ自分らしく生きる道を肯定して、応援してくれるような歌詞になっており、聴いている我々まで勇気づけてくれます。歌もサウンドも強く、「生命力」に満ち溢れた一曲です。

共鳴

共鳴

 

 

執筆に時間がかかるので1000文字未満で済ませたいのですが、また『ハナノユメ』同様2000文字に来てしまいました……『共鳴』は特に好きな曲が多くて長くなってしまう……

*1:『生命力』以降、といいましたが、①のタイプだと『風吹けば恋』、『拳銃』など歪んだギターの曲はありましたね。とは言っても全体で括れば『耳鳴り』と全然ギターが違うんですよ。やっぱり。

『キャラメルプリン』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

Awa Come』収録。

キャラメルプリン

キャラメルプリン

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『生命力』『告白』あたりでは少なかったきつめのロックですね。それでもリズムのズレをうまく活用しているあたりがチャットモンチーっぽいな、と思いつつ。曲単体のかっこよさもあるのですが、何よりチャットがこの曲を演奏しているというのが最高にロックだなと思うのです。

『chatmonchy has come』と同時期の未発表4曲+徳島での新作4曲で構成された『Awa Come』ですが、これは昔の曲なのかな……なんて。『耳鳴り』みたいなトーンを感じますけど。実際はどうなんでしょうね。

 

作詞はくみこんで、もう言うまでもないのですが、巧みな歌詞で小説の一節のようです。あんまり語りすぎても良くないので、ぜひご自分で聴いてください。「キャラメルプリンのが好きだよ」っていう部分、「の(ほう)が」を省略した表現ですが、童心に還るように可愛らしさが垣間見えていいですね。えっちゃんの歌い方もあるでしょうが。

この曲ではキャラメルプリンと対照して、さらっと「ブラックコーヒー」も2回でてきますね。夢と実際、過去と現在、仕事と生活……さまざまな対立軸が見えてきます。いやはや、巧妙だなあ。

 

この曲、メロディやギターのストロークの不安定さが歌詞の世界観を支えています。特に序盤は歪んだギターがストロークで大袈裟に響いている(カッティングをしないので音が残る)中、「何かを期待しすぎたって……」と落ち着かないボーカルからはじまります。ストロークの微妙に遅れ気味のリズムも、リスナーを不安にさせます。

 

まあそういう曲なだけあって、ドラムやベースはきちんとリズムを刻むに徹して、バランスが取れています。ただしAメロなどでちょくちょくハイハット(オープン)や変則的なリズムが挟まっていますね。手堅く刻んでくるのも良いですね。チャットのドラムは派手なのが多いですから。

 

面白いのはアウトロというかギターソロというか、最後のところです。コーラスに被せてギターソロを演奏して終わり。チャットの中では珍しいというほどでもないですが、しかしかっこいい終わり方ですよね。背伸びして大人になろうとする感じのかっこつけ方、成人前後の音楽という感じが響きます。

 

Awa Come

Awa Come

 

 

『ミカヅキ』レビュー

作詞・作曲:橋本絵莉子
『生命力』収録の最終曲。
生命力
えっちゃん高校時代の一曲。ポップでアップテンポな曲が多い『生命力』で、同じく高校時代の『橙』と双璧を成す存在です。
『橙』同様あくまでシンプルで、目立つ曲ではないですが、チャットモンチーの代表作たるこのアルバムを整える重要な曲です。

ミカヅキ

ミカヅキ

冒頭はボーカルからゆっくり始まります。
「ミーカーヅーキになりたーかったー」という音程は、唱歌『ふるさと』の「兎追いし…」を思わせるようで、なかなか琴線に触れる歌い出し。
歌詞は全部載せる訳には行かないので、ぜひ皆さんには聴いて確かめてほしいのですが、「抽象的だけどしっくり来る」タイプの歌詞です。

ミカヅキになりたい。」

背景はよくわからないけれど、きっと作者はなんとなく満ち足りない気分なのでしょうね。具体的に述べない宜しさがあって、誰しも心当たりのある表現です。描写は「月」「私」に限られ、夜にふと空を見上げた「私」が「ミカヅキ」に話しかけるような形になっています。

わからないながらに詩的だなと思うフレーズは、

落ちていく自分に 紺の絵の具を足して ぐちゃぐちゃにした

です。勿論ミカヅキとの比較が前提なのですが、完全に「虚」の心理描写ですよね。精神的にしんどくなっていく自分の心を自分で制御しようと、あるいは諦めている様子を三日月に例えて述べているのでしょうか。美しい表現です。

よくわからないわからないと言いましたが、歌詞全体を読むと、夜空の下で、些細で具体的な悩みなどは打ち捨ててしまって、段々と「生命力」がみなぎってくる作者の様子がよく見えます。
その証拠に、「ミカヅキになりたかった」は「なりたい」に、「ぐちゃぐちゃにした」から「私がいた」「あなたがいる」というように変化してきます。
歌詞の進行に合わせて音楽もベース→ドラム→ギターと音が増え、生き生きとしてくる。まさに『生命力』を締め括るに相応しい曲でしょう。

シンプルな音作り

この曲、シンプルな音作りにも関わらず聴きがいがあるのは、やはりメロディラインの巧さとベースのおかげでしょうか。
まず、先ほども述べた合唱曲のような懐かしさを感じるメロディ、そしてえっちゃんの
優しい歌唱。優しいとひとくちに言っても、『LOVE IS SOUP』『びろうど』など色々ありますが、ここでは素性としての優しさです。
『橙』もそうなのですが、音程が高すぎないこともあってか、この曲は素顔で歌っているようなイメージがあります。装わない歌声とでも言えば良いでしょうか。かっこつけもかわいこぶりもしない、素直な声がぐっさり刺さります。

そして、あっこびんのベースの良さ。最初のほぼアカペラみたいなところから、ベースはよく動きながらサブのメロディを奏でています。もはやコーラス。手で弾いているのかはよく知りませんが、それこそ歌声のようなあたたかく頼れる音を出しています。ドラムやギターが単調な中で準メロディとでも言えるようなメロディを奏でているのがこの曲のもう一つの良さです。

生命力

生命力

『バースデーケーキの上を歩いて帰った』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

3ピース時代最後のアルバム、『YOU MORE』リード曲。

 

【特典QRコードステッカー無し】YOU MORE

随分ながいタイトルですが、「たぶんハッピーバースデーの歌なんだろうな」という予測はたちます。私はひねくれ者なのでハッピーな曲は苦手なのですが……。

磨かれた音 

やはり『YOU MORE』はすごいアルバムで、商業的な部分は放棄(?)して、とにかく音を磨いたんだぞ、という感じがひしひしと伝わってきます。

この曲も特徴的なギターのメロディから始まるところは『ハナノユメ』などと同様なのですが、まずベースとギターの(ほぼ)ユニゾンであるところが印象的です。そしてとくにAメロとソロの遅れてギターの音が今までのチャットにはないサウンドを感じさせられます。

ベースはイントロのメロディをずっと弾き続けて、動きまくりですけどそこが気持ち良い。ここまで動いてまとめるのは素人ながら難しいのではと思ってしまいますが、とにかくあっこのベースのおかげで3人とは思えない音の厚さを出していますね。『YOU MORE』は、チャット史上(『共鳴』『誕生』は除いて)一番音が厚いアルバムだと思います。

 革新的(?)なスネア

あと気になるのはくみこんのドラムですね。『YOU MORE』はドラムがすごいんです。特にこの曲はスネアがゆっるゆるでびっくりします。

基本的に、ロックバンドのドラムってスネアをピシッと叩いて音を止めることが良しとされていると思って、現にHi-STANDARD恒岡さんが入った『こころとあたま』などはスネアが歯切れのよい音になっています(ハイスタはパンク系統ですが)。

しかしこの曲ではスネアが限界まで緩められているような叩き方をしています。まあもともとくみこんは緩めのスネアで、大ざっぱに言えば『耳鳴り』以降どんどん緩むような傾向がありましたが、これは真骨頂です。

Aメロなど、ギターはディレイの効いた音を出して反射してハネるような感じですが、それに合わせてスネアも反響を狙っているのではないでしょうか。バスドラムのリズムなども遅れ遅れで拍を取っていて(付点休符が入っていますね)、響くような音が徹底されています。

全体的に、スネアが一つのタムとしても機能しているようなイメージでしょうか。ソロ終わりのフィルなどスネアとは思えない豊かな響き方です。

……まあこういう感じでスネアが革新的なんですが、もうちょっとドラムについて言うと、ハイハットのクロースが上手くなっています(失礼) ハナノユメなどと聴き比べればわかるように、サビのハイハットはしっかりメリハリのある、響かない音になっているのが素敵です。

くみこんを上回るテクニックのドラマーはたくさんいるでしょうが、彼女は「すごい」んです。

歌詞もくみこん

長くなりました。肝心の歌詞もくみこんです。この曲については、「バースデーケーキの上を歩いて帰った」……ってなんだよ、という感じですが、Aメロが完全に対句構造になっていてですね、「月も無い環七通りを歩いて…」いや、これ以上は言うのをやめましょう。

しかし曲の明るさによらず、そして「ユーモア」というアルバムタイトルによらず、かなり虚しい歌詞ですよね。全然ハッピーじゃない。

誕生日、一人で環七通りを歩いて帰っている冴えない私。環七通りの街灯とどこかの家のシャンパンの音を聴いて「わあ、バースデーケーキだ」って……いやいや、かわいそうなので一緒に祝ってあげたくなりますよね……(笑)

そして曲の最後は

繰り返し 希望と絶望

ですが、これは

あとどれくらい繰り返すだろう 希望と絶望を

から出てきた言葉で、結局「年をとることはめでたいものじゃなく、この先の人生には酸いも甘いもあるのだ」と悟っているような曲なんです。

歌詞は暗め、曲調は明るめ(歌詞を読んだ後だと空元気にも聴こえますが)。ちょうどニュートラルな人生観が、この曲の秀でるところではないでしょうか。

 

えっちゃんがこの一見虚しい、冴えない主人公の歌詞をあっけらかんと高い声で歌うのがまたぴったり。本当に完成度の高い一曲だと思います。シングルカットしてもかなり売れたような……(まあこの辺はいずれアルバムレビューに書きます)。

P.S.

MVが本当にくだらなくていいですよね。生の喜びを押し付け過ぎない感じがチャットらしいです。ツッコミのえっちゃん似合ってる。 

【特典QRコードステッカー無し】YOU MORE

【特典QRコードステッカー無し】YOU MORE

 

 

 

『three sheep』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

 『表情』収録。『風吹けば恋』カップリング曲。

 風吹けば恋

ブログタイトルにもしている一曲です。くみこん脱退を経た今思えば、ですが、三匹、っていうところがチャットモンチーらしくて好きです。

どうでもいいのですが、"sheep"は単複同形なので三匹でも"three sheeps"とはなりません。自主制作盤では間違っていたとかいないとか(笑) 

three sheep(Album Mix)

three sheep(Album Mix)

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いや、一言で言ってしまえばこの曲、「夢に羊がでてきた」というだけなんですが、音の世界が広すぎる。まあ、夢というところだけで歌詞も曲も綺麗にまとまっているので、なかなか印象に残りづらい曲なんでしょうか。残念ながら知名度は高くありませんね。もっと聴いて!

 

冒頭の歌詞、「新しいノート開くのが好きでね 何書こうかな真っ白なページにって」ですよ。『ハナノユメ』じゃないですけど、くみこんのこういう具体的な始まりが本当に好きです。誰しも共感できる些細なこと。ここから深い深い夢の世界へと広がっていきます。

 

この曲を形づくっているのはやっぱり2人のコーラス。チャットはあっことくみこんの2人がガッツリ歌いまくることで3ピースの音を厚くしてきた節もあり、また、ずれたコーラスの入れ方(『シャングリラ』の「♪あ~ぁあ~」など)なども特徴的で、コーラスなくしてチャットモンチーは語れぬ、というくらいなのですが、その代表格がこの曲。

2番の「sing a song...」以降でボーカルが交代するのは泣けますね。しかもMV見るとここで一匹ずつ羊が増えてる! やっぱり”three”は3人のことですよね! ね!(暴走)

 

この2番Bメロ(3人)→サビ→Bメロ(1人)→(ベース)ソロの流れで、サビ後でえっちゃんが静かに歌うのとか本当に綺麗で。ギターが大人しくなってからのあっこのベースソロは、優しく力強い音で、包容力がある感じ。やっぱベースの高音って何者にも代えがたくって良いですよね。

それから最後の「あなたの足音が近づくまで どうかこのまま眠らせて」。『春夏秋』でもそうですが、静かになった後の一言で一気に持ってかれます。どうしようもなく愛おしくなる。チャットでたまにあるこういうテクニック(?)、作詞が巧いのか作曲の妙なのか、ずっと気になっています。

 

全体的にロックテイストな楽器なのにひたすら優しい音が出せているのがこの曲の見どころだと思っています。ギターもひずんでいるのに、なぜか心落ち着くような。一時期毎晩寝る前に聴いていました(笑) 寝るのに困ったらぜひ聴いてください。でも3人が3人とも良い曲なのでちょっと泣けてきちゃうかも……。

 

本当はくみこんのタム使いとかについて話したかったのですが、ドラムには思い入れが強いので、それはまたいつかまとめて書きましょう。

ちなみに、この曲でいちばん好きなのは「おとつい」です。関西ではよく使うんですね(笑) 唐突にでてくるこの語感が好きです。

 

MV


www.youtube.com

夢の中はクレヨンを使ったアナログな手法で描いていて、現実の通常のアニメーションと対比的になっていますが、とても美しい世界が描き出されています。ラスサビのところで扉にたどり着くところがとくに好きです。素敵な夢だなあ。

表情<Coupling Collection>

表情<Coupling Collection>

 

 

『ハナノユメ』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

『chatmonchy has come』リード曲。『耳鳴り』収録。

chatmonchy has come

デビューミニアルバムのリード曲ともあって、ラジオでかなり再生され、話題を呼んだらしい(当時幼稚園児である)が、この曲はやはり革命的なものがあります。

また別に書きますが、歌詞、演奏、どれを取っても魅力に溢れている一曲で、この曲の頭サビですぐチャットモンチーファンになりました。

ハナノユメ

ハナノユメ

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写実的な歌詞 

「薄い紙で指を切って……」から始まる歌詞は、歌詞というジャンルでは珍しく写実的です。写実するにしても、なかなか細かい部分。

薄い紙で指を切って 赤い赤い血が滲む

これっぽっちの刃で 痛い痛い指の先

誰でも紙で指先を切ったことはあるでしょう。この曲は共感で皆を引き込んでから、一気に勢いで、バラ、地球、そして「あなた」へ話を広げてしまいます。

日常のささやかなところから壮大に世界を広げていくところに、くみこんの「文学性」が出ているでしょう。

枯れてしまった ピンク色のバラ

明日は ちゃんと水を吸って

元気になりますように どうかどうか

幸せをあげるから

この曲にはそもそも2つのモチーフがあります。「赤い赤い血」と「枯れてしまったピンク色のバラ」です。

語るに落ちる感があるのでそう多くは述べませんが、まず、作者は紙で指を切って、大した痛みではないはずなのに、血が滲み、確かに痛みを自覚します。その些細な出来事から、「あなた」との関係について回想していきますが、今現在、「あなた」との関係は、「枯れてしまったピンク色のバラ」のような状態になってしまっている……そういう曲なのです。

「あなた」について具体的なことは書かれていませんが、しかし「あなた」との不安定な関係を思っていると心が落ち着かず、自分が地球の隅っこでちゃんと立てているかどうかすら、まるでわからなくなってきます。そうして自分の心は宇宙レベルにまで広がっていき、「血」「バラ」「地球」「あなた」は有機的に結びつき、ひとつの詩たりうるのです。

*1

 くみこんのドラム

この世界の広がりを作り上げているのが、マーチングを思わせるドラムだと思います。これはくみこんが吹奏楽部出身とのことで、その影響が色濃く出ているのかもしれませんね。

この曲はくみこんの他の曲と比べるとドラムがシンプルです(Last Love Letterなどの桁違いな手数の多さを考えれば)が、しかし豊かでハネるリズムによって、曲の明るいイメージとテンポの良さをしっかり形づくっています。

特に、コーラス部分~2番サビ前にかけての部分は、それこそ本当に地球が自転しているのを目の当たりにしているような、重力がヘンになってくるような感じがしませんか?

やはりこのロックバンドにはなかったタイプのリズムが結構ハマっていて、まさにチャットモンチーという感じがします。『DEMO、恋はサーカス』『シャングリラ』なんかでもちょっとだけ登場しますね。

それに、手数は少ないながらも、くみこんと言えばタム、タムと言えばくみこんというくらいですから(勝手に呼んでいるだけ)、しっかりと印象的なフィルがあって、特にサビ前のタタドンというリズム。シンプルで珍しくはないんですがそれ以外の音が無いのもあり、とっても印象強いですよね。

 ループしながら変わる演奏

サビ前もそうですが、3人しかいないのに「音を絞る」という行為をきっぱりしていて、それなのに音が厚いのが、特にこの曲の凄さだと思います。

メロディは繰り返すように聞こえますが、かなり音は変化しています。基本的に、冒頭から終盤にかけてだんだん音が増えていくイメージです。

例えば、ギターだと、1番Aメロはほとんどベースとドラムの音だけで成り立っていますが、ラスサビ後の「枯れてしまった……」ではギターもきっぱり入っている、という具合です。

ドラムは、マーチング調の、タンタカタカタンタカタカタンタタ…というリズムに差があります。リズム自体は冒頭と3回の「二本足で… 」に登場しますが、冒頭はスネア、1番はハイハット、コーラス部分はスネア、直後のえっちゃん独唱に切り替わったあとではハイハット+スネアになっていて、だんだん賑やかになっていきます。

ベースについては、音の出し方こそ変わっていませんが、冒頭ではシンプルにベース音でビートを刻むだけなのが、1番サビあたりからどんどん動くようになってきます。2番サビもまた違う演奏になっていて、実はあまり繰り返していません。この高音に動くところめちゃくちゃかっこいいし耳に残ります。

(ベースが聴き取りづらいよ、という方はサビの「これっぽっちの小さな傷が」のあたりで、ボーカルと呼応するように音程が上がるシーンがあるので、そこを聴いてください)

 

ちなみに、この曲においてやはりベースはかなりリズムキープに徹しています。というのも、ドラムがビートを刻むことが少なく、かなり変動的なマーチングのリズムを叩いているからです。冒頭部分など、ベースが前のめりなテンポの良さを出していて、ドラムは後ろから歩いてついてくるようなイメージです(比喩が難しい)。ドラムが世界観を広げるためにベースは基礎を固めているんですが、基礎を固めながらも高音まで上ってくるところ(サビ)が本当に良い音なんですよね。いや、ハマりますね。この曲は褒めることしかできない。

 

もう言う間でもないと思いますが、ギターも印象的です。特に技術的に言うことはありませんが、やはりソロ含め間奏のメロディを弾く部分が曲の雰囲気を一気に作っています。えっちゃんはハイスタの影響を受けているといいますけど、この前奏のメロディでノラせてから、ちょっと落ち着いたAメロの歌に繋げる感じはまさにそれ。

にしてもこの人本当にメロディ作るセンスがすごいなあ、と思います。チャットは全曲聴きましたが、頭にしみついて忘れられないようなメロディが山ほどありますよね。

 

このように、盛大に広がる歌詞の世界に合わせて音が広がっているのですが、いかがでしたか。私が初めて聴いたのは2019年ですが、エポックメイキングな作品ですよね。

初めて聴いたときは冷水を浴びせられたような感覚でした。目が醒めて視界が開けるような。この曲と、チャットと出会えて本当に良かった。(重いw)

 

chatmonchy has come

chatmonchy has come

 

 

耳鳴り

耳鳴り

 

 

*1:こんな風に書いているとラストアルバムのリード曲、『たったさっきから3000年までの話』と対照的なようにも見えてきますね。不思議。