3ピース時代最後のアルバム、『YOU MORE』リード曲。
随分ながいタイトルですが、「たぶんハッピーバースデーの歌なんだろうな」という予測はたちます。私はひねくれ者なのでハッピーな曲は苦手なのですが……。
磨かれた音
やはり『YOU MORE』はすごいアルバムで、商業的な部分は放棄(?)して、とにかく音を磨いたんだぞ、という感じがひしひしと伝わってきます。
この曲も特徴的なギターのメロディから始まるところは『ハナノユメ』などと同様なのですが、まずベースとギターの(ほぼ)ユニゾンであるところが印象的です。そしてとくにAメロとソロの遅れてギターの音が今までのチャットにはないサウンドを感じさせられます。
ベースはイントロのメロディをずっと弾き続けて、動きまくりですけどそこが気持ち良い。ここまで動いてまとめるのは素人ながら難しいのではと思ってしまいますが、とにかくあっこのベースのおかげで3人とは思えない音の厚さを出していますね。『YOU MORE』は、チャット史上(『共鳴』『誕生』は除いて)一番音が厚いアルバムだと思います。
革新的(?)なスネア
あと気になるのはくみこんのドラムですね。『YOU MORE』はドラムがすごいんです。特にこの曲はスネアがゆっるゆるでびっくりします。
基本的に、ロックバンドのドラムってスネアをピシッと叩いて音を止めることが良しとされていると思って、現にHi-STANDARD恒岡さんが入った『こころとあたま』などはスネアが歯切れのよい音になっています(ハイスタはパンク系統ですが)。
しかしこの曲ではスネアが限界まで緩められているような叩き方をしています。まあもともとくみこんは緩めのスネアで、大ざっぱに言えば『耳鳴り』以降どんどん緩むような傾向がありましたが、これは真骨頂です。
Aメロなど、ギターはディレイの効いた音を出して反射してハネるような感じですが、それに合わせてスネアも反響を狙っているのではないでしょうか。バスドラムのリズムなども遅れ遅れで拍を取っていて(付点休符が入っていますね)、響くような音が徹底されています。
全体的に、スネアが一つのタムとしても機能しているようなイメージでしょうか。ソロ終わりのフィルなどスネアとは思えない豊かな響き方です。
……まあこういう感じでスネアが革新的なんですが、もうちょっとドラムについて言うと、ハイハットのクロースが上手くなっています(失礼) ハナノユメなどと聴き比べればわかるように、サビのハイハットはしっかりメリハリのある、響かない音になっているのが素敵です。
くみこんを上回るテクニックのドラマーはたくさんいるでしょうが、彼女は「すごい」んです。
歌詞もくみこん
長くなりました。肝心の歌詞もくみこんです。この曲については、「バースデーケーキの上を歩いて帰った」……ってなんだよ、という感じですが、Aメロが完全に対句構造になっていてですね、「月も無い環七通りを歩いて…」いや、これ以上は言うのをやめましょう。
しかし曲の明るさによらず、そして「ユーモア」というアルバムタイトルによらず、かなり虚しい歌詞ですよね。全然ハッピーじゃない。
誕生日、一人で環七通りを歩いて帰っている冴えない私。環七通りの街灯とどこかの家のシャンパンの音を聴いて「わあ、バースデーケーキだ」って……いやいや、かわいそうなので一緒に祝ってあげたくなりますよね……(笑)
そして曲の最後は
繰り返し 希望と絶望
ですが、これは
あとどれくらい繰り返すだろう 希望と絶望を
から出てきた言葉で、結局「年をとることはめでたいものじゃなく、この先の人生には酸いも甘いもあるのだ」と悟っているような曲なんです。
歌詞は暗め、曲調は明るめ(歌詞を読んだ後だと空元気にも聴こえますが)。ちょうどニュートラルな人生観が、この曲の秀でるところではないでしょうか。
えっちゃんがこの一見虚しい、冴えない主人公の歌詞をあっけらかんと高い声で歌うのがまたぴったり。本当に完成度の高い一曲だと思います。シングルカットしてもかなり売れたような……(まあこの辺はいずれアルバムレビューに書きます)。
P.S.
MVが本当にくだらなくていいですよね。生の喜びを押し付け過ぎない感じがチャットらしいです。ツッコミのえっちゃん似合ってる。