三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『橙』レビュー(前編)

作詞・作曲:橋本絵莉子

6thシングルA面、『生命力』収録。

ミカヅキ』同様、高校時代の一曲。
橙

橙

橋本絵莉子作詞作曲の代表格といえる作品でしょう。

チャットモンチーという日本語ロック

この曲の少し気になるところは、やはり冒頭のジャパニーズ・イングリッシュですよね。
ゼァイズナッシンアイキャンドゥーフォーユー、と片仮名で歌っているイメージです。ここで言いたいのは、えっちゃんの英語が下手だよね、ということではなく、ひとえにチャットモンチーが日本語ロックバンドである、ということです。

【以下余談】
そもそも、ロックの本場で使われている英語と、普段使っている日本語とはアクセントの体系が全く異なります。
日本語は音の高低でアクセントをつけるのに対し、英語は強弱でアクセントをつけるのです。
たとえば、何の曲でもいいのですが、仮に椎名林檎で比較してみれば、『歌舞伎町の女王』が「蝉の声を聞くたびに」を一音一音、せ・み・の……と発音していますが、『ここでキスして。』の「I'll never be able to give up only you...」は、アィネェッバッビィエーットゥー……と発音されます。これが強弱アクセントです。
【余談終わり】

この曲は"There is nothing I can do for you"とありますが、全然英語の発音ではなく、日本語然とした、カタカナっぽい発音ですね。鮮やかなまでにジャパニーズ・イングリッシュなんですが、これがこの曲の良さでもあります。

一音一音をしっかり発音する、日本語ならではの発音を音符に一個ずつのせて"語るように"歌うことで、聴く側は歌詞を見ないでもしっかり聴き取ることができます。だからこそ、チャットモンチーの(ここではえっちゃんの)素直な歌詞は、より"刺さる"のです。

この曲のサウンドですが、ギターはカッティングをせず、ジャーンジャーンジャーンジャジャンジャーンとギターのストロークが鳴り響いて耳に残りますが、そのリズムと歌の伸び方とがマッチして力強く心に響いてきます。ベースやドラムも他の曲より手数が少ないですが、少ない分一音一音のパンチが効いているというか、「重い」んですよね。
最初はシンプルな曲だなーと思ったんですが、やっぱりこのシンプルさじゃなきゃ伝わらないものだよな、と思う今日この頃です。

* * *

日本語ロックの歴史、といえばやはり「はっぴいえんど」を思い浮かべる人が多いでしょうか。日本語でロックを歌う試みは彼らが始めて定着しており、チャットモンチーが登場するころは既に日本語こそスタンダードになっていました(寧ろハイスタなどが驚かれたくらい)。
しかし、橋本絵莉子の曲の特徴は、やはり「日本語ロックを聴いて育った世代である」ことに由来していると思います。先ほどあげた椎名林檎は音楽的に洋楽の影響を受けていますが、チャットモンチーは基本的に邦ロックの成分でできているのではないでしょうか。根本に日本語の曲しかないからこそ、そもそも曲作りの時点から日本語のための曲が出来るんだと思います(チャットモンチーはたいてい詞が先ですし)。
そして、この『橙』こそ、「日本語を響かせる」のに注力した結果の一曲なのだと思います。
『恋愛スピリッツ』『CAT WALK』『やさしさ』あたりも響いてくるのですが、これらはやはり優秀なボーカリスト橋本絵莉子の歌声をどう際立たせるかよく分かっている作りだなと思うのです(そりゃ自分で書いてるから当然ですが)。

生命力

生命力

歌詞に対してここぞという曲で(詞先なので)使っていた、この力強く熱唱するボーカルなんですが、『告白』より後はあまり見られませんね。若さだったのでしょうか(10代の生意気なコメント)。

後編では歌詞について書いていきます。

sheep-three.hatenablog.jp