三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『あいまいな感情』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

『告白』収録。

告白

あいまいな感情

あいまいな感情

歌詞

I, my, me, mineという、英語の一人称単数代名詞の格変化と「あいまい」を掛けた歌詞です。ただ、ここはやはりくみこんの力で、言葉遊びという以上に良さがあります。

詞の状況

I my me mine

初めてプレゼントもらった

I my me mine

くじらのついたシャープペンシル

I my me mine

握りしめた手の中 熱くって

こっそりと教室に戻る

一番のサビでは、過去のプレゼントをもらったシーンが回想されます。そして、二番のサビでは、

I my me mine

あいまいな感情だけど

I my me mine

あなたを愛せると思うの

とあります。

いやぁ……、短い言葉ではあるんですが、この二番が素晴らしすぎる。

状況としては、おそらく小さい頃にはぶらんこの二人乗りもしたような仲良しの友達から、長い付き合いの中で初めてプレゼントをもらって、告白もされたのかもしれません。

そこで、一人でブランコに乗って「どうしようかな……」と考えているわけです。色々自問自答する中で、「あいまいな感情だけど あなたを愛せると思うの」という言葉に行き着いたのではないでしょうか。

告白されたばかりのもやもや感と、それでも確固たる信頼関係が築かれている安心感が、この「あいまいな感情」なのに、「あなたを愛せると思う」という確信に満ちた表現なのだと思います。

韻に注目

この歌詞は、中身のみならず音にも注目して見てほしいです。

I my me mineと「あいまい」が掛詞である以上に、2番のサビは「な感けど」「せると思うの」と、ア段音でかためられています。この効果で、音が大変滑らかに聞こえるのです。

くじら

続く歌詞で、こんなフレーズがあります。

私はブランコに乗って くじらをとびこえるから

「あなたを愛せると思うの」という決意が固まって、ぶらんこで勢いをつけて漕いでいる状況です。相手がくれた「くじらのついたシャープペンシル」を飛び越える、つまりそれ以上のプレゼントを返そうと決めたのでしょうか。あるいは、もしかしたら告白の言葉は何も言われていなくて、プレゼントを機に「私の方からしよう」と決意したのかもしれません。

くじらというチョイスも絶妙です。きっと広く晴れた海を連想するからでしょうか、うまく言い表せないのですが、穏やかで切実な思いのやり取りが感じられます。

ベースから始まり、全編を通してベースの音が印象的な曲です。

『やさしさ』などと同様、ボーカルを始めとして音の響き・エコーの面で、強めにエフェクトがかけられていて、不思議な雰囲気を醸し出しています。

ギターもベースも、同じフレーズの繰り返しがうるさいほどに続きますが、そんな中でずっと曲を変化させ続けているのがドラムです。

バスドラ+スネア→4ビート→4ビート(シンバル)→8ビート→16ビート→32ビート→ミュート→バスドラ+スネア…

というふうに変化していきます。この曲調の変化が面白くて、詞の中での感情の高まりとも一致しているような気がしますね。特に32ビートと書いた、「くじらをとびこえるから」の部分はもはや動悸のようで、緩急の付け方がうまいなぁと思わされます。

 

おまけ

ところでこの曲リーガルリリーっぽさがありますよね(というか、リーガルリリーの方が後発なのだけれど)。

スリーピース時代でも『告白』〜『YOU MORE』あたりは様々な挑戦が感じられて、その一つ一つが後輩のバンドたちに大きく影響を与えたのだろうな、と思わせられます。

そういえば、『告白』というタイトルですが、この『あいまいな感情』や『風吹けば恋』あたりから取られているのかなぁ、などとも考えられますね。