『three sheep』レビュー
『表情』収録。『風吹けば恋』カップリング曲。
ブログタイトルにもしている一曲です。くみこん脱退を経た今思えば、ですが、三匹、っていうところがチャットモンチーらしくて好きです。
どうでもいいのですが、"sheep"は単複同形なので三匹でも"three sheeps"とはなりません。自主制作盤では間違っていたとかいないとか(笑)
いや、一言で言ってしまえばこの曲、「夢に羊がでてきた」というだけなんですが、音の世界が広すぎる。まあ、夢というところだけで歌詞も曲も綺麗にまとまっているので、なかなか印象に残りづらい曲なんでしょうか。残念ながら知名度は高くありませんね。もっと聴いて!
冒頭の歌詞、「新しいノート開くのが好きでね 何書こうかな真っ白なページにって」ですよ。『ハナノユメ』じゃないですけど、くみこんのこういう具体的な始まりが本当に好きです。誰しも共感できる些細なこと。ここから深い深い夢の世界へと広がっていきます。
この曲を形づくっているのはやっぱり2人のコーラス。チャットはあっことくみこんの2人がガッツリ歌いまくることで3ピースの音を厚くしてきた節もあり、また、ずれたコーラスの入れ方(『シャングリラ』の「♪あ~ぁあ~」など)なども特徴的で、コーラスなくしてチャットモンチーは語れぬ、というくらいなのですが、その代表格がこの曲。
2番の「sing a song...」以降でボーカルが交代するのは泣けますね。しかもMV見るとここで一匹ずつ羊が増えてる! やっぱり”three”は3人のことですよね! ね!(暴走)
この2番Bメロ(3人)→サビ→Bメロ(1人)→(ベース)ソロの流れで、サビ後でえっちゃんが静かに歌うのとか本当に綺麗で。ギターが大人しくなってからのあっこのベースソロは、優しく力強い音で、包容力がある感じ。やっぱベースの高音って何者にも代えがたくって良いですよね。
それから最後の「あなたの足音が近づくまで どうかこのまま眠らせて」。『春夏秋』でもそうですが、静かになった後の一言で一気に持ってかれます。どうしようもなく愛おしくなる。チャットでたまにあるこういうテクニック(?)、作詞が巧いのか作曲の妙なのか、ずっと気になっています。
全体的にロックテイストな楽器なのにひたすら優しい音が出せているのがこの曲の見どころだと思っています。ギターもひずんでいるのに、なぜか心落ち着くような。一時期毎晩寝る前に聴いていました(笑) 寝るのに困ったらぜひ聴いてください。でも3人が3人とも良い曲なのでちょっと泣けてきちゃうかも……。
本当はくみこんのタム使いとかについて話したかったのですが、ドラムには思い入れが強いので、それはまたいつかまとめて書きましょう。
ちなみに、この曲でいちばん好きなのは「おとつい」です。関西ではよく使うんですね(笑) 唐突にでてくるこの語感が好きです。
MV
夢の中はクレヨンを使ったアナログな手法で描いていて、現実の通常のアニメーションと対比的になっていますが、とても美しい世界が描き出されています。ラスサビのところで扉にたどり着くところがとくに好きです。素敵な夢だなあ。
『ハナノユメ』レビュー
『chatmonchy has come』リード曲。『耳鳴り』収録。
デビューミニアルバムのリード曲ともあって、ラジオでかなり再生され、話題を呼んだらしい(当時幼稚園児である)が、この曲はやはり革命的なものがあります。
また別に書きますが、歌詞、演奏、どれを取っても魅力に溢れている一曲で、この曲の頭サビですぐチャットモンチーファンになりました。
写実的な歌詞
「薄い紙で指を切って……」から始まる歌詞は、歌詞というジャンルでは珍しく写実的です。写実するにしても、なかなか細かい部分。
薄い紙で指を切って 赤い赤い血が滲む
これっぽっちの刃で 痛い痛い指の先
誰でも紙で指先を切ったことはあるでしょう。この曲は共感で皆を引き込んでから、一気に勢いで、バラ、地球、そして「あなた」へ話を広げてしまいます。
日常のささやかなところから壮大に世界を広げていくところに、くみこんの「文学性」が出ているでしょう。
枯れてしまった ピンク色のバラ
明日は ちゃんと水を吸って
元気になりますように どうかどうか
幸せをあげるから
この曲にはそもそも2つのモチーフがあります。「赤い赤い血」と「枯れてしまったピンク色のバラ」です。
語るに落ちる感があるのでそう多くは述べませんが、まず、作者は紙で指を切って、大した痛みではないはずなのに、血が滲み、確かに痛みを自覚します。その些細な出来事から、「あなた」との関係について回想していきますが、今現在、「あなた」との関係は、「枯れてしまったピンク色のバラ」のような状態になってしまっている……そういう曲なのです。
「あなた」について具体的なことは書かれていませんが、しかし「あなた」との不安定な関係を思っていると心が落ち着かず、自分が地球の隅っこでちゃんと立てているかどうかすら、まるでわからなくなってきます。そうして自分の心は宇宙レベルにまで広がっていき、「血」「バラ」「地球」「あなた」は有機的に結びつき、ひとつの詩たりうるのです。
くみこんのドラム
この世界の広がりを作り上げているのが、マーチングを思わせるドラムだと思います。これはくみこんが吹奏楽部出身とのことで、その影響が色濃く出ているのかもしれませんね。
この曲はくみこんの他の曲と比べるとドラムがシンプルです(Last Love Letterなどの桁違いな手数の多さを考えれば)が、しかし豊かでハネるリズムによって、曲の明るいイメージとテンポの良さをしっかり形づくっています。
特に、コーラス部分~2番サビ前にかけての部分は、それこそ本当に地球が自転しているのを目の当たりにしているような、重力がヘンになってくるような感じがしませんか?
やはりこのロックバンドにはなかったタイプのリズムが結構ハマっていて、まさにチャットモンチーという感じがします。『DEMO、恋はサーカス』『シャングリラ』なんかでもちょっとだけ登場しますね。
それに、手数は少ないながらも、くみこんと言えばタム、タムと言えばくみこんというくらいですから(勝手に呼んでいるだけ)、しっかりと印象的なフィルがあって、特にサビ前のタタドンというリズム。シンプルで珍しくはないんですがそれ以外の音が無いのもあり、とっても印象強いですよね。
ループしながら変わる演奏
サビ前もそうですが、3人しかいないのに「音を絞る」という行為をきっぱりしていて、それなのに音が厚いのが、特にこの曲の凄さだと思います。
メロディは繰り返すように聞こえますが、かなり音は変化しています。基本的に、冒頭から終盤にかけてだんだん音が増えていくイメージです。
例えば、ギターだと、1番Aメロはほとんどベースとドラムの音だけで成り立っていますが、ラスサビ後の「枯れてしまった……」ではギターもきっぱり入っている、という具合です。
ドラムは、マーチング調の、タンタカタカタンタカタカタンタタ…というリズムに差があります。リズム自体は冒頭と3回の「二本足で… 」に登場しますが、冒頭はスネア、1番はハイハット、コーラス部分はスネア、直後のえっちゃん独唱に切り替わったあとではハイハット+スネアになっていて、だんだん賑やかになっていきます。
ベースについては、音の出し方こそ変わっていませんが、冒頭ではシンプルにベース音でビートを刻むだけなのが、1番サビあたりからどんどん動くようになってきます。2番サビもまた違う演奏になっていて、実はあまり繰り返していません。この高音に動くところめちゃくちゃかっこいいし耳に残ります。
(ベースが聴き取りづらいよ、という方はサビの「これっぽっちの小さな傷が」のあたりで、ボーカルと呼応するように音程が上がるシーンがあるので、そこを聴いてください)
ちなみに、この曲においてやはりベースはかなりリズムキープに徹しています。というのも、ドラムがビートを刻むことが少なく、かなり変動的なマーチングのリズムを叩いているからです。冒頭部分など、ベースが前のめりなテンポの良さを出していて、ドラムは後ろから歩いてついてくるようなイメージです(比喩が難しい)。ドラムが世界観を広げるためにベースは基礎を固めているんですが、基礎を固めながらも高音まで上ってくるところ(サビ)が本当に良い音なんですよね。いや、ハマりますね。この曲は褒めることしかできない。
もう言う間でもないと思いますが、ギターも印象的です。特に技術的に言うことはありませんが、やはりソロ含め間奏のメロディを弾く部分が曲の雰囲気を一気に作っています。えっちゃんはハイスタの影響を受けているといいますけど、この前奏のメロディでノラせてから、ちょっと落ち着いたAメロの歌に繋げる感じはまさにそれ。
にしてもこの人本当にメロディ作るセンスがすごいなあ、と思います。チャットは全曲聴きましたが、頭にしみついて忘れられないようなメロディが山ほどありますよね。
このように、盛大に広がる歌詞の世界に合わせて音が広がっているのですが、いかがでしたか。私が初めて聴いたのは2019年ですが、エポックメイキングな作品ですよね。
初めて聴いたときは冷水を浴びせられたような感覚でした。目が醒めて視界が開けるような。この曲と、チャットと出会えて本当に良かった。(重いw)
*1:こんな風に書いているとラストアルバムのリード曲、『たったさっきから3000年までの話』と対照的なようにも見えてきますね。不思議。