三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『誕生』アルバムレビュー

7枚目にしてラストアルバムとなった『誕生』。アルバムとしては初のチャットモンチー・メカ体制となり、曲調もまた一新され、まるでデビューしたてのバンドの1stのようなものを残して行ってくれました。

誕生 (Bonus Track Edition)

個人的には「第3の『耳鳴り』」と呼びたいくらいですが、この話はまた後で。*1

曲順

  1. CHATMONCHY MECHA
  2. たったさっきから3000年までの話
  3. the key
  4. クッキング・ララ feat.DJみそしるとMCごはん
  5. 裸足の街のスター
  6. 砂鉄
  7. びろうど
  8. (恋の煙 同期ver.)

うーん、良い曲順ですね。というかこれ以外の選択肢が見えない。曲調から言ってもぴったりですし、なんと言ったって歌詞の並び。

M1はプロローグとしてのインスト(?)曲。M2,3では進化形としての"新しい"チャットモンチーを見せ、

M4でお口直し的な色物、M5,6で少し歴史を振り向きつつ、M7では新世界を見せるような形です。

漂う『耳鳴り』の雰囲気

やっぱりこのアルバムって『耳鳴り』がすると思うんです。もちろん、一つには攻めた姿勢で全く新しい、1stみたいな雰囲気というのもあります。しかし、それ以上に、『耳鳴り』同様の少し暗い雰囲気が感じられます。

何が暗い雰囲気を醸し出すのかというと難しいのですが……。そうですね、歪んだギターとか、重低音のドラムとかが雰囲気づくりに一役買っているのかもしれません。ここはぜひ皆さん聴いて感じてみて下さい。

それに、歌詞や曲調もこれまでの『変身』〜『Magical Fiction』とは打って変わって内省的で、深いところに言及しようという姿勢が垣間見えてきます。

だめだめでも許すよ

全体として、『耳鳴り』で心を閉ざしていた状態から、次第に明るめだったり前向きだったりになったものが、またラストアルバムで内向きになったと言えるような気がします。しかし、『耳鳴り』に戻ったというわけではなく、別のステージに進んだということだと思うのです。達観、といえばいいのでしょうか。

例えば、『the  key』の歌詞を見てみてください。

the key to my room

the key to my mind

嫌いな人が出来る日は

あなたのはじまり

あなたのはじまりだよ

チャットモンチーの本領ってナルシシズムの爆発にあると思うのですが、その肯定に加えて、他者までも(それも、恋人としての「あなた」以外さえも!)許す姿勢に転換しているのです。ここが『耳鳴り』とは全然違うポイントです。思い返してみれば、『メッセージ』『どなる、でんわ、どしゃぶり』『恋の煙』『恋愛スピリッツ』など、どの曲も一人称で主観的で、相手の描写は極めて少なく、随筆のような構成でした。

しかし、『砂鉄』では、

だめでもだめだめでも許すよ

それだけ忘れないで

とありますし、『たったさっきから3000年までの話』では、

あなたは座り慣れた椅子で

そんなニュースを見てる

だけど眠る前にはふと笑えるような

そんな思い出に囲まれているでしょうか

と語っています。この変化はやはり特筆すべきものではないでしょうか。*2*3

まとめ

と、いう感じでレビューしてきましたが、どうでしょうか。このアルバム、初めて聴いた時はそんなにしっくり来ないのですが、何回も聴いているとずぶずぶハマっていく感覚があります(俗にいう「スルメ曲」です)。3人時代しか聴いていないような方も本当に二、三回通して聴いてみて頂きたいところです。

このアルバムレビューという記事は、やはり曲を①アルバム単位で②順番に聴いてほしい! という思いもあって始めたのですが、『誕生』についてはやっぱり世界観が他とあまりに違うので、シャッフル再生で聴くタイプじゃないと思うし、本当に一度はアルバムのまま聴いてほしいんですよね。素晴らしい並びだと思います。

 

追記

久しぶりの投稿です。たくさんの訪問ありがとうございます〜! SNSの宣伝等全くしていないのですが来ていただいて幸いです。更新はぼちぼちしますので、これからも宜しくお願いします。コメントとかもどうぞ。

sheep-three.hatenablog.jp

*1:第2の耳鳴りは何だよと言われると、個人的には『YOU MORE』だと思いますが、『変身』もそういうきらいはあって決めづらいんですよね……w

*2:まあ、『橙』のえっちゃんと『シャングリラ』のくみこんが今作に至るまでで遂にエゴイズムを乗り越えた、という感があって、あくまであっこびんは元から俯瞰的でしたよね。『世界が終わる夜に』とか『きみがその気なら』とか。

*3:露骨で溢れ出るようなえっちゃんのエゴと違って、くみこんのエゴイズムってもっと冷静に、だけど自分を見て! って感じなんですよね。『CAT WALK』とか『草原に立つ二本の木のように』とか。どれが良いというでもなく、ただこの多様性が本当に面白いです。