三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『素直』レビュー

作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子

『生命力』収録。

素直

素直

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 シンプルなアコースティック編成で、ピアノをあっこ&えっちゃんが連弾、クラリネットをくみこんが演奏しています。さすが吹奏楽部。

構成は、A→B→サビ→サビ×2 です。「サビがどこだか」はっきりした曲なんですよね。

一回しか聞けないのですが、このBメロが結構好みです。

 

どこかの辛口レビューでは、この曲について、「チャットは元から普通のメロディなのに、バンドサウンドまで捨てたら何の取り柄もない」みたいなコメントを見かけまして、色々否定したいところはあるのですが、実際その『耳鳴り』にあったようなぶち壊し方は少なく、どちらかというと綺麗にまとめた曲になっているのは事実です。

 

しかし、なかなかありきたりに終わっていないのがこの歌詞だと思います。

さびがどこだか わからない歌が 好きでした

だけどなんでも はっきりしたい私の性格は あなた好み

この、ちょっとわかるようでわからない感じ。 ぐっさり刺さるわけではないけれど、心を掠めていく程度の実感が良いですね。

「さびがどこだかわからない歌」って、まあチャットモンチーですしね。『ツマサキ』『プラズマ』『終わりなきBGM』……。思い当たる節は色々ありますが、どちらかというともっと静かなラブソングみたいなもののことでしょうね。

そして、サビでは、

積もり積もった光みたいに 綺麗なものを想像しないで

たまりにたまる煙草の灰みたいなんだから

みたいなんだから……

 難しい! 難しいけど詩的ってことはわかります。

そもそも光って「積もる」んでしょうか。何が「煙草の灰みたい」なんでしょうか。

謎は色々ありますが、これはこのまま楽しみたい一曲です。

 

……だとレビューにならないので、ちょっとだけ書いておきましょう。

歌い出しを見てみると、

心地よい束縛も今ではただのゴムの首輪のよう

なるほど。「あなた」と「束縛」関係にあったところが、だんだんと関係が疲れてきた様子でしょうか。

2番サビでは、

そもそもあなたがいけないんだって言ってるじゃない 最初っから

あなたの顔が浮かんで消えては煙にとけていく

とあります。やっぱり、別れたあとでしょうか、或いは喧嘩をしたのでしょうか。煙草を吸って「あなた」を思い返しているシーンでしょう。

 

こうして、煙草を吸っている作者は、おそらく自分のことを、または自分との関係のことを、「光」ではなくて「煙草の灰みたいなんだから」、と歌っているのです。

 

いや、全然素直じゃないですよ、この歌詞。自分の感情は正直に表さないし、「みたいなんだから」って、抽象的な言葉で誤魔化していませんか? でも、この曲はその矛盾の構造が軸になっています。

最初にも言及しましたが、「サビがどこだか」はっきりしていますし。「なんでもはっきりしたい私」は全然正直に物を言いませんし。この大いなる矛盾を抱えて、全然素直じゃない曲に『素直』と題したところにこの歌詞の本質があるというか、それが玉虫色の乙女心というものなのです……なのだと思います。

 

この歌詞は、なんと言っても抽象的な言葉でまとめた美しさがあります。名曲『染まるよ』にも繋がるあっこの歌詞ですが、『染まるよ』がエモーショナルに寄った歌い方なのに対し、もっとあっさりとした歌い方、歌詞なのががまた良さだと思います。

 

か弱くて掠れそうな声で歌っているのもこの曲には合っていて好感が持てますね。アコースティックには賛否ありますが、新たな側面を見せたということもあり、また歌がよく聴こえるので悪くないと思います。アルバム全体を見ても、元気な曲が多い中で、ある意味折り返し地点としてよく機能しているのではないでしょうか。

あまり人気のないだろう曲ですが、かなりチャットの根幹に関わるところが表出しており、後々のアルバムにも影響していく点で、重要な一曲だと思います。言うなれば、チャットの暗い部分、ダークな部分をオブラートに包まずに味わっている感じ。アレルギー反応が出るのも仕方ないですが個人的には好きですね。 

あまり演奏には触れてきませんでしたが、コーラスラインのようなクラリネットの入り方も素敵です。

生命力

生命力

 

 『チャットモンチーレストラン メインディッシュ』Disc2で生命力みなぎりTOURのこの曲が見られますが、連弾しているえっちゃん&あっこで泣きそうになりました。なんでだろう。