三匹の羊/チャットモンチー

チャットモンチーと私

『the key』レビュー

作詞:橋本絵莉子 作曲:チャットモンチー

チャットモンチー・メカ」体制で作られたラストアルバム、『誕生』収録。
誕生(通常盤)
電子音が多いイメージの『誕生』では数少ない、ロックバンド的サウンドな一曲(あとは『砂鉄』くらいか?)。

the key

the key

サウンド

バリトンギターという、低音もカバーできるギターで弾いているようです。良い音してますね。
ドラムはサンプリングしたのと電子音と両方ある、と聞きましたが、この曲の特にサビは生音な気がしますね。ドラムの強いドンドンというリズムが印象的です。
全然曲調は違いますが、このドラムといい、アウトロに歪んだギターソロがある感じといい、どことなく『ウィークエンドのまぼろし』を思うんですよね。『誕生』だけあって原点回帰みたいな意味もありそうですね。
何にせよ、サウンド的にはガラッと違っても、それでもやはり「チャットモンチー」を感じるのがこの『誕生』です。

歌詞

歌詞は……ごめんなさい、レビューと銘打っておきながらあまり語れないんですよね。橋本絵莉子ってやっぱ何考えてるかわからないなぁと。そう感じたラストアルバム。

くみこんの歌詞は物語立てていて、きちんと一つ一つの言葉に意味を持たせているし、あっこも素直に感情を吐露している感じ。それに対して、結局えっちゃんの歌詞って、なんか心の澱みをさっと浚ってきたようなイメージがあって、少ない言葉の一つ一つに重みがありながら、やや難解なのです。ただ、言葉のチョイスにかなりドキッとさせられることが多いですね。

今回は特にメカ体制で音重視なのか、歌詞は短めになっていまして、その分背景はうまく取れません。でも解釈することもなく、頭ではなく心で聴けるようなのがえっちゃんの歌詞だよな、とも思います。

それこそ「the key to my mind 」ですから、「心を開く」といった趣旨の話をしているだろうことはわかります。心の鍵にまつわる話。

遠くから見て綺麗だから 真夏の歩道橋を歩く ゆっくり間違いながら

難しいですが、倒置が効いていて味があります。人の目を気にして、つらいところへ出ていくというところ。続く冷たい畳のところは、心を開かないがゆえに孤独なのだ、という風に解釈できるでしょうか。
そして、サビにはバリエーションがありますが、どれも〈肯定〉のニュアンスがあります。
この、「あなた」を肯定し、「私」を「あなた」に肯定してもらおうとする姿勢は、『シャングリラ』と同様、チャットモンチーの一つのスタンスだと思います。*1

アルバムで3曲目という重要な(1曲目はほぼインストなので)位置に置かれていることからもわかる通り、この曲が一つのチャットモンチーの完成形で、えっちゃんからのラスト・メッセージなのだと思います。

誕生(初回生産限定盤)

誕生(初回生産限定盤)

……えっちゃん作詞の曲で言えば『たったさっきから3000年までの話』『the key』でチャットモンチーは既に完結していて、『びろうど』で新しいところに入りかけて終わっているようなイメージがあります。やっぱ全然歌詞の調子が違いますし。ここはまた『びろうど』で述べましょう。

*1:子供へのメッセージでは、という意見を目にして、なるほどなぁと思いもしたのですが、なんかもっと普遍的なことを歌っているような気もしてくるのがこの曲の面白いところです

『おとぎの国の君』レビュー

作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子

『耳鳴り』収録。

 

1stフルアルバムの『耳鳴り』は、かなり暗めでロックな曲が多く、以後のポップな路線とは大きく異なります。この曲もその一つで、しかしエンディングにかけて力強くなります。

もう一つ、『耳鳴り』では曲調がガラリと変わってしまう曲が多いように思いますが、この曲も、Aメロ→B→A→B→C→サビ→A'、のように展開します。

 

おとぎの国の君

おとぎの国の君

  • provided courtesy of iTunes

 冒頭はベースのメロディーから始まります。これもかなり『耳鳴り』特有のサウンドに聴こえますが、あっこのベースは安定感と包容力があるのでとても好きです。1番と2番の間(?)のささやかなベースも印象深いです。

 

そしてそのあっこが書いた歌詞。

曲の展開と同じく2つのAメロが対句形になっており、「あれは月にさらわれたんじゃないだろうか」を境にサビへ、そしてまたAメロに戻ってくるという詞の展開が美しいです。

特に、

君なしじゃただの白黒の絵 味気ないんだ

ださくてかっこ悪い僕のこと忘れないでいて

あたりは、かなり刺さる歌詞じゃないでしょうか。

 

『染まるよ』もそうですが、こういう素直な描写にかけては福岡晃子の腕が光るところですね。

くみこんはもっと文学的というか修辞的。えっちゃんはナルシスティックでダークな感じですかね。作詞家3人の違いも相まって、素晴らしいバンドだと思います。

 

Aメロの声が掠れたような歌唱からの、サビの力強い歌のギャップもまた良いですね。サビのメロディーは、言ってしまえば「普通」ですが、Aメロのトーンを二回繰り返して聴いてきたリスナーには強く残るものがあります。

サビの全員歌唱も、初期っぽさはありますが、これが後にチャットモンチーとして完成されていくのかと思うと感慨深いですね。多すぎるまでのコーラスはチャットモンチーの個性ですものね。

 

 

耳鳴り

耳鳴り

 

 

 

 

『少女E』レビュー

作詞・作曲:橋本絵莉子
『変身』収録曲。

2ピース体制で収録されたアルバムです。音の少なさを工夫と演奏でカバーしていて、本当に強いサウンドを感じます。

少女E

少女E

少女Eっていうのはきっと絵莉子のEですよね。
「A型は几帳面だからいつもてんびん座で占う」
ってありますけど、えっちゃんは10/17生まれらしいですし。

だとすると、かなりえっちゃんのロックな部分がストレートに出ている曲ですよね。歌詞を見てもらえばわかりますけど、例えば
「隙を見せたらやられるんだ 過去に」
なんかはチャットモンチーの、特にくみこん脱退後の数度の「変身」の原動力になっているフレーズな気がしますよね。
「今」に甘えないぞ、という自己暗示的な意味合いもある一曲ではないでしょうか。

サウンドもまたとにかくかっこいい。個人的に『変身』は一番ロック色の高い、良い意味で攻撃的なアルバムだと思っているのですが、特にイントロがどの曲もクールですよね。
この曲もその一つで、四つ打ちのバスドラム→エレキの高音(名前がわからない)→エレキのメロディーと音が増えていきますが、特に音の少なさを感じず、寧ろ充実して聴こえます。
2人体制への「変身」後、『満月に吠えろ』ではまだ音が少ないシンプルな作りに聴こえていましたが、段々と『ハテナ』でハーモニカを使ったり、ギターレスの曲を作ったりするうちに音が厚くなったように思います。アルバムのオリジナル曲はそういう点でハイクオリティに仕上がっているのではないでしょうか。

あっこのドラムは、メジャーバンドのドラムとしては手放しに上手いとは言えませんが、独特の力強さがある上、シンプルなりにタムやシンバルでビートを取るなど工夫がちりばめられています。
特にくみこんを彷彿とさせるタム使いは、まさに「チャットモンチーのドラム」たるに充分でしょう。

ギターも歌詞も力強く響くこの曲は、「『変身』というアルバムを仕上げたのはまだ第一歩で、まだまだ新しいことをどんどんやるぞ」という宣言にも聴こえる一曲です。

変身(初回生産限定盤)(DVD付)

変身(初回生産限定盤)(DVD付)

昨日『共鳴』を書いたら楽器が多すぎて大変だったので、『変身』は楽かなぁと思っていましたが、寧ろ小細工が多くて大変でした……いや、このアルバムのクリエイティビティは眉唾ものですよ。

『きみがその気なら』レビュー

作詞:福岡晃子 作曲:橋本絵莉子

男陣/乙女団編成(など)で収録された『共鳴』のリード曲。

編曲はチャットモンチー+男陣です。

共鳴(初回生産限定盤)(DVD付)

男陣はドラムのHi-STANDARD恒岡章さん、キーボード(・ギター)のthe chef cooks me下村亮介さんで構成されています。チャット憧れのHi-STANDARDからまさか恒岡さんが入ってくれるなんて……本当すごいですよね。

長くなりそうなのでこの話はいずれアルバムレビューを書いた時に。

きみがその気なら

きみがその気なら

  • provided courtesy of iTunes

 

『共鳴』は『告白』とは別ジャンルですがかなりの名盤だと思っています。その責任重大な一曲目を飾るのがこの曲です。

意外と馴染むシンセ

恒岡さんの軽やかなドラムを合図に、一気に曲が始まります。3ピース→『変身』→『共鳴』と聴いた方には音が多すぎてびっくりしますよね(笑) 特に変身の次だと(笑) その割に、シンセサイザーの音は意外と馴染んでいて、違和感は少ない印象です。

冒頭から歌詞と同じメロディを奏でるのは今までのチャットの楽曲にも多いですし、そのメロディーパートをシンセに譲っただけだからあまり違和感が無いのかもしれません。

それにしてもチャットモンチーは音の引き算がうまいですよね。これだけ多くの楽器があっても、ちゃんと冒頭とサビ以外では音を減らして落ち着かせるような気配りがあります。例えば1番のAメロではシンセがコードを奏でてギターは少なめ。Bメロではギターのカッティングが激しい分、シンセは止まる。2番のAメロになるとそれまでリズムを刻むのに徹していたベースが動き出すので、ギターとシンセは裏拍で登場します。

他にも、ドラムもフィルが少しずつ変わっているなど芸が細かいので、よく聴いてみてください。

久しぶりの(?)歪んだギター

3ピース時代でもやっぱり『生命力』以降はポップな路線に行ってて、特に『真夜中遊園地』のような単音弾きもあり、ギターがクリーンで高い音になっていった気が(あくまで全体的に)して、更に『変身』では楽器が減ったこともあって特にメロディアスなギターだったと思うのですが、ここへ来て純粋に歪んだギターでコードを奏でる、というスタイルが出ています。「(3ピース時代よりも)楽器が増えたから安心できる」というところでしょうか。ギターソロも素直にかっこいいですし、歪んだギター、良いですね。

個人的にチャットのうちハイテンポな曲の良さって、①がっつりロックなのにすんなり入ってくる ②要素要素はロックなのに聴こえ方はポップ の2つがあると思っていまして、そのうちだとこの曲は②で、チャットモンチーの良さが前面に出ている作品です。

*1

休業中にボイトレした?

え、ていうか、えっちゃんの歌うまくなってません? 元から声量はボーカル界でも上位の方だったと思いますが、2人体制の『恋愛スピリッツ』あたりからか、高音の伸びが格段に良くなっている気がするんですよね。サビは高音なのに一番声が出ていて、聴いているこっちまで気持ち良い。

2番の「嘘でつぶして(ぇえ)しまわないで」のところなんかは演歌入ってますけどね(笑) そこまで含めてえっちゃんらしくて好きです。

気になる歌詞

この曲初めて聴いたとき、やっぱり皆さん歌詞が気になりませんでした? 

「きみがその気なら」……。「なら」何なのか? ということ。そして、ラスサビで一回だけ登場する「生命力」というワード。これは……くみこん宛の歌詞なのでは??? と。僕は最初思いました。

うーーーーーーん。しばらく考えたんですが、でも、インタビューであっこが「もともと他の人に書いた歌詞で」みたいな発言をしていましたし、多分違うんでしょう(あっさり)

その線を捨ててもう一度読み直すと、むしろ、無意識ながらに自分たちを応援するようなメッセージになっているのではないでしょうか。

他人には言わない密やかなマグマ

ってめっちゃえっちゃんっぽいですし。

誰もが良い子でいたい世界で君は敵を探している これがエネルギーになるのを知っていたんだね

というのも、斬新な2ピースで手探りながらに「変身」したあっこだからこそ書ける歌詞だったのでは?

実際『変身』時代に書いた曲だと言いますが、何にせよ自分らしく生きる道を肯定して、応援してくれるような歌詞になっており、聴いている我々まで勇気づけてくれます。歌もサウンドも強く、「生命力」に満ち溢れた一曲です。

共鳴

共鳴

 

 

執筆に時間がかかるので1000文字未満で済ませたいのですが、また『ハナノユメ』同様2000文字に来てしまいました……『共鳴』は特に好きな曲が多くて長くなってしまう……

*1:『生命力』以降、といいましたが、①のタイプだと『風吹けば恋』、『拳銃』など歪んだギターの曲はありましたね。とは言っても全体で括れば『耳鳴り』と全然ギターが違うんですよ。やっぱり。

『キャラメルプリン』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

Awa Come』収録。

キャラメルプリン

キャラメルプリン

  • provided courtesy of iTunes

『生命力』『告白』あたりでは少なかったきつめのロックですね。それでもリズムのズレをうまく活用しているあたりがチャットモンチーっぽいな、と思いつつ。曲単体のかっこよさもあるのですが、何よりチャットがこの曲を演奏しているというのが最高にロックだなと思うのです。

『chatmonchy has come』と同時期の未発表4曲+徳島での新作4曲で構成された『Awa Come』ですが、これは昔の曲なのかな……なんて。『耳鳴り』みたいなトーンを感じますけど。実際はどうなんでしょうね。

 

作詞はくみこんで、もう言うまでもないのですが、巧みな歌詞で小説の一節のようです。あんまり語りすぎても良くないので、ぜひご自分で聴いてください。「キャラメルプリンのが好きだよ」っていう部分、「の(ほう)が」を省略した表現ですが、童心に還るように可愛らしさが垣間見えていいですね。えっちゃんの歌い方もあるでしょうが。

この曲ではキャラメルプリンと対照して、さらっと「ブラックコーヒー」も2回でてきますね。夢と実際、過去と現在、仕事と生活……さまざまな対立軸が見えてきます。いやはや、巧妙だなあ。

 

この曲、メロディやギターのストロークの不安定さが歌詞の世界観を支えています。特に序盤は歪んだギターがストロークで大袈裟に響いている(カッティングをしないので音が残る)中、「何かを期待しすぎたって……」と落ち着かないボーカルからはじまります。ストロークの微妙に遅れ気味のリズムも、リスナーを不安にさせます。

 

まあそういう曲なだけあって、ドラムやベースはきちんとリズムを刻むに徹して、バランスが取れています。ただしAメロなどでちょくちょくハイハット(オープン)や変則的なリズムが挟まっていますね。手堅く刻んでくるのも良いですね。チャットのドラムは派手なのが多いですから。

 

面白いのはアウトロというかギターソロというか、最後のところです。コーラスに被せてギターソロを演奏して終わり。チャットの中では珍しいというほどでもないですが、しかしかっこいい終わり方ですよね。背伸びして大人になろうとする感じのかっこつけ方、成人前後の音楽という感じが響きます。

 

Awa Come

Awa Come

 

 

『ミカヅキ』レビュー

作詞・作曲:橋本絵莉子
『生命力』収録の最終曲。
生命力
えっちゃん高校時代の一曲。ポップでアップテンポな曲が多い『生命力』で、同じく高校時代の『橙』と双璧を成す存在です。
『橙』同様あくまでシンプルで、目立つ曲ではないですが、チャットモンチーの代表作たるこのアルバムを整える重要な曲です。

ミカヅキ

ミカヅキ

冒頭はボーカルからゆっくり始まります。
「ミーカーヅーキになりたーかったー」という音程は、唱歌『ふるさと』の「兎追いし…」を思わせるようで、なかなか琴線に触れる歌い出し。
歌詞は全部載せる訳には行かないので、ぜひ皆さんには聴いて確かめてほしいのですが、「抽象的だけどしっくり来る」タイプの歌詞です。

ミカヅキになりたい。」

背景はよくわからないけれど、きっと作者はなんとなく満ち足りない気分なのでしょうね。具体的に述べない宜しさがあって、誰しも心当たりのある表現です。描写は「月」「私」に限られ、夜にふと空を見上げた「私」が「ミカヅキ」に話しかけるような形になっています。

わからないながらに詩的だなと思うフレーズは、

落ちていく自分に 紺の絵の具を足して ぐちゃぐちゃにした

です。勿論ミカヅキとの比較が前提なのですが、完全に「虚」の心理描写ですよね。精神的にしんどくなっていく自分の心を自分で制御しようと、あるいは諦めている様子を三日月に例えて述べているのでしょうか。美しい表現です。

よくわからないわからないと言いましたが、歌詞全体を読むと、夜空の下で、些細で具体的な悩みなどは打ち捨ててしまって、段々と「生命力」がみなぎってくる作者の様子がよく見えます。
その証拠に、「ミカヅキになりたかった」は「なりたい」に、「ぐちゃぐちゃにした」から「私がいた」「あなたがいる」というように変化してきます。
歌詞の進行に合わせて音楽もベース→ドラム→ギターと音が増え、生き生きとしてくる。まさに『生命力』を締め括るに相応しい曲でしょう。

シンプルな音作り

この曲、シンプルな音作りにも関わらず聴きがいがあるのは、やはりメロディラインの巧さとベースのおかげでしょうか。
まず、先ほども述べた合唱曲のような懐かしさを感じるメロディ、そしてえっちゃんの
優しい歌唱。優しいとひとくちに言っても、『LOVE IS SOUP』『びろうど』など色々ありますが、ここでは素性としての優しさです。
『橙』もそうなのですが、音程が高すぎないこともあってか、この曲は素顔で歌っているようなイメージがあります。装わない歌声とでも言えば良いでしょうか。かっこつけもかわいこぶりもしない、素直な声がぐっさり刺さります。

そして、あっこびんのベースの良さ。最初のほぼアカペラみたいなところから、ベースはよく動きながらサブのメロディを奏でています。もはやコーラス。手で弾いているのかはよく知りませんが、それこそ歌声のようなあたたかく頼れる音を出しています。ドラムやギターが単調な中で準メロディとでも言えるようなメロディを奏でているのがこの曲のもう一つの良さです。

生命力

生命力

『バースデーケーキの上を歩いて帰った』レビュー

作詞:高橋久美子 作曲:橋本絵莉子

3ピース時代最後のアルバム、『YOU MORE』リード曲。

 

【特典QRコードステッカー無し】YOU MORE

随分ながいタイトルですが、「たぶんハッピーバースデーの歌なんだろうな」という予測はたちます。私はひねくれ者なのでハッピーな曲は苦手なのですが……。

磨かれた音 

やはり『YOU MORE』はすごいアルバムで、商業的な部分は放棄(?)して、とにかく音を磨いたんだぞ、という感じがひしひしと伝わってきます。

この曲も特徴的なギターのメロディから始まるところは『ハナノユメ』などと同様なのですが、まずベースとギターの(ほぼ)ユニゾンであるところが印象的です。そしてとくにAメロとソロの遅れてギターの音が今までのチャットにはないサウンドを感じさせられます。

ベースはイントロのメロディをずっと弾き続けて、動きまくりですけどそこが気持ち良い。ここまで動いてまとめるのは素人ながら難しいのではと思ってしまいますが、とにかくあっこのベースのおかげで3人とは思えない音の厚さを出していますね。『YOU MORE』は、チャット史上(『共鳴』『誕生』は除いて)一番音が厚いアルバムだと思います。

 革新的(?)なスネア

あと気になるのはくみこんのドラムですね。『YOU MORE』はドラムがすごいんです。特にこの曲はスネアがゆっるゆるでびっくりします。

基本的に、ロックバンドのドラムってスネアをピシッと叩いて音を止めることが良しとされていると思って、現にHi-STANDARD恒岡さんが入った『こころとあたま』などはスネアが歯切れのよい音になっています(ハイスタはパンク系統ですが)。

しかしこの曲ではスネアが限界まで緩められているような叩き方をしています。まあもともとくみこんは緩めのスネアで、大ざっぱに言えば『耳鳴り』以降どんどん緩むような傾向がありましたが、これは真骨頂です。

Aメロなど、ギターはディレイの効いた音を出して反射してハネるような感じですが、それに合わせてスネアも反響を狙っているのではないでしょうか。バスドラムのリズムなども遅れ遅れで拍を取っていて(付点休符が入っていますね)、響くような音が徹底されています。

全体的に、スネアが一つのタムとしても機能しているようなイメージでしょうか。ソロ終わりのフィルなどスネアとは思えない豊かな響き方です。

……まあこういう感じでスネアが革新的なんですが、もうちょっとドラムについて言うと、ハイハットのクロースが上手くなっています(失礼) ハナノユメなどと聴き比べればわかるように、サビのハイハットはしっかりメリハリのある、響かない音になっているのが素敵です。

くみこんを上回るテクニックのドラマーはたくさんいるでしょうが、彼女は「すごい」んです。

歌詞もくみこん

長くなりました。肝心の歌詞もくみこんです。この曲については、「バースデーケーキの上を歩いて帰った」……ってなんだよ、という感じですが、Aメロが完全に対句構造になっていてですね、「月も無い環七通りを歩いて…」いや、これ以上は言うのをやめましょう。

しかし曲の明るさによらず、そして「ユーモア」というアルバムタイトルによらず、かなり虚しい歌詞ですよね。全然ハッピーじゃない。

誕生日、一人で環七通りを歩いて帰っている冴えない私。環七通りの街灯とどこかの家のシャンパンの音を聴いて「わあ、バースデーケーキだ」って……いやいや、かわいそうなので一緒に祝ってあげたくなりますよね……(笑)

そして曲の最後は

繰り返し 希望と絶望

ですが、これは

あとどれくらい繰り返すだろう 希望と絶望を

から出てきた言葉で、結局「年をとることはめでたいものじゃなく、この先の人生には酸いも甘いもあるのだ」と悟っているような曲なんです。

歌詞は暗め、曲調は明るめ(歌詞を読んだ後だと空元気にも聴こえますが)。ちょうどニュートラルな人生観が、この曲の秀でるところではないでしょうか。

 

えっちゃんがこの一見虚しい、冴えない主人公の歌詞をあっけらかんと高い声で歌うのがまたぴったり。本当に完成度の高い一曲だと思います。シングルカットしてもかなり売れたような……(まあこの辺はいずれアルバムレビューに書きます)。

P.S.

MVが本当にくだらなくていいですよね。生の喜びを押し付け過ぎない感じがチャットらしいです。ツッコミのえっちゃん似合ってる。 

【特典QRコードステッカー無し】YOU MORE

【特典QRコードステッカー無し】YOU MORE